18回やみいち行動、上演の記録

第18回やみいち行動   (2004 12/24 24:00〜) 

『戦場のメリーポピンズ』 

登場人物 
ギレン・ワサビ政府軍司令官)……藤原康弘 
ドネツク・ドビンスキー(博士の弟)……桶雅景 
ドニエプル・ドビンスキー(博士)……池田一平 
アリマー・ブリーフ・スミス(反政府軍ゲリラ)……鬼豚馬 
ハインリッヒ・三郎(NP軍兵士)……桐山泰典 
NP軍適性審査官……吉本和孝 
バオバブの木……故太郎 

AP通信(声の出演)……村上慎太郎

*寄入れ中、お客さんの持ってきた具材を鍋に投入。そしてその内容がギレンに報告される。

サイレンの音。

ギレン むっ。何事だ!…大事なこれを、みすみす渡す訳にはいかないんだ。(鍋の中身のリストをもってはける。)

暗転。

ヘリコプターの飛んでゆく音が客席を横切ってゆく。その後に、のどかなワルツが聞こえてくる。

スライド 『第18回やみいち行動』
スライド 『戦場のメリーポピンズ』
スライド (空を飛ぶポピンズのイラスト)
スライド 『隊長、未確認飛行家政婦です』
スライド 『ん?』
スライド (空を飛ぶポピンズのイラスト)
スライド 『撃ち落とせ』
スライド (撃ち落とされるポピンズのイラスト)
スライド 『完』
スライド 『このあとは第18.5回をお楽しみ下さい』

ギレン・ワサビ登場。地図のスライドが出る。

ギレン トランクス軍、北方戦線司令官のギレン・ワサビである。あの、非人道的なブリーフ専制政治から、それを打破するために我がトランクス軍がトランクス主義革命を起こしてからというもの、今出川通りを含むこの辺りは、トランクス軍と、ブリーフゲリラ共による、最大の激戦地区であった。

だが、…時計台砲の開発により、我がトランクス軍は一気に戦線を北大路通りのちょっと北まで、押し上げることに成功した。それにより、旧ブリーフゲリラの拠点であるカナート洛北も、我が軍の手に落ちた。

…だが!、このスライドをご覧戴きたい。

(三条京阪駅の土下座像のスライドがでる)

これは、三条京阪駅の土下座像に偽装したブリーフゲリラである!…次のスライドをご覧戴きたい。

(モーニング娘のスライドがでる)

画質が悪くて申し訳ないが、これは、モーニング娘に偽装したブリーフゲリラである!…次のスライドをご覧戴きたい。

(アトリエ劇研のスライドがでる)

これは、アトリエ劇研に偽装したブリーフゲリラである!…このように、ブリーフゲリラはまだ到るところに潜んでいる。諸君も、重々注意されたい。次に、天才科学者、ドニエプル・ドビンスキー博士誘拐計画についてである…、

(ドビンスキー博士のスライドがでる)

時計台砲の例からも分かるように、近代戦争の結果を支配するのは科学力である。我が軍では、先の『ぢの7日間戦事』を終わらせた、巨ちん兵の開発者である、ドニエプル・ドビンスキー博士に、協力を請うことにした。そして、ドビンスキー博士の身柄を拘束することに成功した。この作戦、コードネーム「この木何の木アントニオいの木」による我が軍の被害は、ペルーラマ32頭、アンデスラマ20頭、アルパカ5頭、その他のラクダ6頭となっている。

現在、ドニエプル、ドビンスキー博士は我が軍への協力を断固として拒んでいるが、この、ギレン・ワサビが直々に説得にあたるつもりである。博士もこの、戦争意義を理解すれば必ずや我が軍に協力してくれるはずである。我が軍は、いや、我がトランクス政府は全ての人に開かれた公平な政府である。何か意見の有る者は、このトイレットッペーパーに書いて、ギレンの所まで流すように。…スライド、御苦労であった。

(スライド消える。)

我が忠勇なるトランクス兵士達よ!、ブリーフゲリラ艦隊の半数が、我が時計台砲によって鴨川に消えた。この輝きこそ、我等トランクス軍の正義の証である!ブリーフゲリラの残骸が、いかほど残っていようとも、それはすでに形骸である。敢えて言おう、カスであると。今こそ、ブリーフゲリラの無能の者どもに思い知らせてやらねばならぬ!、人類は、明日の未来に向かって立たねばならぬ時であると!、

ジーク、トランクス!

群衆の声 ジーク、トランクス!ジーク、トランクス!ジーク、トランクス!

…暗転。しばし、群衆の声が続き、消えていってから明転。ラジオから演説の続きが聞こえてきている。ドネツク、現れる。ラジオを消す。

ドネツク 胸クソ悪いんだよ。毎日毎日ヘリコプターを飛ばしたり、ラジオから演説を垂れ流したり、ふざけるなってんだ…。兄さんを何処へやった…。兄さんはそんな家出するような人間じゃないんだ。兄さんはそんな簡単に連れていかれるような人間でもない。兄さんは柔道三段、剣道も三段、リビドーなんか人一倍だ。

兄さんが家出なんか、目的もなく出ていったりなんかするはずがない。兄さんは拉致されたんだ。しかも計画的に、軍や警察や役人や、そんなものが皆グルになって…。ふざけるんじゃない。何とかして、兄さんを取り戻さないと…。

ドネツク、舞台中央にある巨大な麻袋に気がつく。

ドネツク うわあ。…兄さんまた俺に黙って何か変なものを買ったのか?、これは、あれか?、あのアマチュア・レスリングの練習で使う…
麻袋 (逃げる)
ドネツク 志向性を持っているのか?
麻袋 ば、ばれてしまった。
ドネツク (麻袋を揉む)
麻袋 あ、あ、止めてください。止めてください。

麻袋の中から男が出てくる。

ドネツク 何だお前は。
 あ、は、はじめまして。
ドネツク ああ、はじめまして。
 私、ブリーフゲリラの、ゲリラA、あ、名前は、えと、…アリマー・ブリーフ・スミスといいます。
ドネツク アリマー・ブリーフ・スミス。
ゲリラ ええ。通称ゲリラAです。
ドネツク ああ、…通称ゲリラA。いいか。
ゲリラ は、はい。
ドネツク ここは俺んちだよ。お前は、不法進入者だろ。
ゲリラ いや、俺んちって言っても、ここは、…ドニエプル・ドビンムシー博士の家ですよね。
ドネツク ドビンスキーだよ。
ゲリラ ああ!、ドニエプル・ドビンスキー博士の家ですよね。

ドネツク 今のは何かネタだったのか。
ゲリラ いえ、ええ?
ドネツク 流さない方がよかったのか。
ゲリラ ネタ?
ドネツク うん。
ゲリラ どびんむしのネタですか?、そりゃあやっぱり、百合根とか?
ドネツク ああ…。
ゲリラ 竹輪とか。
ドネツク 竹輪?、どびんむしに竹輪か?
ゲリラ 駄目ですか?
ドネツク あー、そうか。
ゲリラ 松茸ぐらい入れないと駄目ですか。
ドネツク 王道はな。
ゲリラ そんな物は手に入らない…。
ドネツク よし分かった。出ていけー。(銃を構える。)
ゲリラ な、なあ!、ちょ、と、…わ、私は一介のゲリラである以前に、ドビンスキー博士の、大、ファンなんですよ!
ドネツク 兄さんの、ファンだと?
ゲリラ もう、小さい頃から。あの、もう、そうです。あれは小学校五年生の頃だったかなあ。
ドネツク ほう。
ゲリラ もうねえ、あの頃ブリーフ王朝は衰退の時期にかかっててね、もうかなりこう斜めになってたんです。
ドネツク 斜め?
ゲリラ そんな時に、そんな時にです。
ドネツク うんうん。
ゲリラ 私の前を。
ドネツク うん。
ゲリラ 博士が、歩いてらした。
ドネツク うん。
ゲリラ そこでポトンと、落とし物!、…もう拾っただけで嬉しくなってね。それ以来私はもう、博士一本やりです!

ドネツク 返しなさい。
ゲリラ ええ?
ドネツク それ、返しなさい。
ゲリラ いや、ちゃんと博士に聞きましたよ。「あ、落としましたよ」って。
ドネツク ああそう?
ゲリラ じゃあ、「ああ、それはいいから。いつか役に立つ時があるかもしれないから取っときなさい。」
ドネツク そうだな、兄さんは鷹揚だから。
ゲリラ ええ。ちゃんと取ってますよ今も!(鞄をあさる。)よいしょ、よいしょ、…これですよ。
ドネツク ああ。それか。
ゲリラ ええ。中身は何だか知らないですけど。
ドネツク ああ、知らなくていいよ。

ジンサンシバンムシエキスであることは言うまでもない。

ゲリラ もうね、大事にしようと思ってね、ちゃんと、分注して全てのポケットに、こうやって…
ドネツク ええ?
ゲリラ 入れてるんですよ!
ドネツク 何で全てのポケットに分けて入れてるの?
ゲリラ いやあ、モットーとして、『博士を全てのポケットに』ってのは。
ドネツク ああ…、そうか。
ゲリラ やっぱりファンならそこまでするべきじゃないですか!
ドネツク ああまあ、気持ちは分かったよ。
ゲリラ ええ。
ドネツク しかしなあ、何て言うか、兄さんはここにはいないんだよ。なあ、だからちょっと帰ってくれるか。
ゲリラ …その話は本当だったんですか。
ドネツク お前、お前ブリーフゲリラだと言ったな。
ゲリラ ええはい。
ドネツク しかし――
ゲリラ 昨日、トイレでこの紙を捨ったんですよ。
ドネツク トイレから捨ったの?
ゲリラ トイレですよ。
ドネツク トイレって?
ゲリラ 公衆便所に決まってるじゃないですか。
ドネツク ああ。
ゲリラ 自分の家のトイレにこんなけったいな物が落ちてたら、卒倒しちゃいますよほら、(紙に書いてある文字を読む)『D.D.IS KlD』博士は子供だって!

本当ならkidnapped,と続くんだろう。

ドネツク 兄さんは――
ゲリラ 侮辱するなって言うんですか!
ドネツク ああ。兄さんは大人だよな。
ゲリラ ええ。
ドネツク だいぶ大人だよ。
ゲリラ 博士が大人なら、…これは博士に何事かあったに違いないと思って、ここに来た訳なんですけど。
ドネツク 何か、…ああ、そうか、分かったよ。
ゲリラ ええ…、で、博士は、ここに?
ドネツク いないよ、だから。
ゲリラ じゃ、どこに。
ドネツク どこにって、…お前、いくら何でもなあ、ブリーフゲリラだからってな、
ゲリラ いや、信じて下さいよ、まだ僕は博士のファンだって――
ドネツク ファンだっちゅうのは分かったよ。
ゲリラ それで不十分なんですか!
ドネツク だってお前、例えばな、何でもいいよモーニング娘でもいい、モーニング娘の所に行って、「あなたの凄いファンです」て言ったら、信用してもらえるか?
ゲリラ ストーカーになれないと駄目なんですか?!
ドネツク いやあ、なったら…、その時はその時だな。
ゲリラ え、じゃあ一体、何をしたら、は、博士…

ドネツク 何をしたらって、…大体、何じゃないの、その、君達がぁ、こう、腰抜けだから、あのいけ好かない政府がのさばってあんな事になってるんじゃないの、そうじゃないの。
ゲリラ ファンクラブの組織が弱いと。
ドネツク いやいやいや。兄さんの事は置いとこうよ。ブリーフゲリラなんだろ。
ゲリラ まあ。
ドネツク 今ブリーフゲリラの話をしてるわけだよ。
ゲリラ まあ、そうですけれど。
ドネツク じゃあ、いつになったら政権奪回出来るんだ君達は。
ゲリラ でも…、私個人としては、ゲリラ活動はファンクラブ活動の合間にしてるもんで。
ドネツク 君みたいなのが構成員だから何時まで経っても政権奪回出来ないんじゃないの、それは。
ゲリラ いや、そんな事を一介の構成員の私に言われでもかなり困ってしまうんですけど。
ドネツク ああ…。あなたはそうかもしれないな。
ゲリラ ええ。
ドネツク そうかあ。
ゲリラ もうちょっとこう上層部の方に。
ドネツク 何ていうかなあ、そうかあ。…一個師団ぐらいなあ、兵力を貸してくれるんだったら何だけどな。お前ら、本当に、何かもうちょっとこう、なあ、信用出来るってのがないとなあ。
ゲリラ 信用。
ドネツク ないのか。

ゲリラ どうしたらいいでしょうね。
ドネツク えー…。
ゲリラ けどなあ。
ドネツク あれは、お前けど何だ。兄さんが最近どんな発明をしているか知ってるか?
ゲリラ も、もちろん知ってますよ。
ドネツク ああ、じゃ言ってみなさい。
ゲリラ ええと、…「で」と「ね」を入れ換える帽子を発明した。
ドネツク ああそうだよ。兄さんは今、人間の認識を変えるということをテーマに発明をしている。
ゲリラ ええ。
ドネツク であるからその「で」と「ね」が、かぶると入れ替わってしまう帽子を発明した。…これによって、「メガデス」は「メガネス」になった。「メガネス」は演奏しようとして、デレレンデレレンデレレンデレレン、デッデーン、ポーン!(眼鏡が飛ぷしぐさ)ってなった。御陰で、メガデスは解散した。
ゲリラ しみじみしてますねえ。
ドネツク うーん。まあ、認識は変わっているという。…他にも!、兄さんは「た」と「ち」を入れ換える発明をしている。
ゲリラ ありました。ありました。
ドネツク これによって、「宝塚」は?
ゲリラ 「力塚」
ドネツク うむ。「タカラジェンヌ」は?
ゲリラ 「チカラジェンヌ」
ドネツク 「たぬき」は。
ゲリラ 「ちぬき」
ドネツク そうそうそう。危ない麻雀劇画みたいになる。それからあの、我が国のね、春になると咲き誇る「たんぽぽ」は。
ゲリラ ああ、「ちんぽぽ」
ドネツク (ゲリラを殴り)言わなくていいよそれは。…下品な方に行っちゃうだろう話が。
ゲリラ ああ、そうですね。
ドネツク まあ、それだけ知ってるなら信じてやってもいいか。

信じるなよ。

ゲリラ 信じてくださいよ。で、博士は一体、どこに。
ドネツク 実はなあ、兄さんはちょっと前に、拉致されてしまったんだ。誘拐だ。
ゲリラ らち。
ドネツク 拉致だ。
ゲリラ 誰に?
ドネツク 誰にって、それは政府軍じゃないかと俺は思うけどな。
ゲリラ (腕でTのマークを作り)これですか?
ドネツク そうだ。奴等は、もう一回兄さんに、あの忌まわしい巨ちん兵のような、生体破壊兵器を、発明させようとしているんだ。
ゲリラ ううううん。しかし、一体それで、博士をどこに?
ドネツク それなんだけどな、あの、新しく出来たあの、4本の煙突のある
ゲリラ ああ、
ドネツク 高い塀に囲まれた、
ゲリラ あの給食センターね。

ドネツク (ゲリラを殴り)給食センターになんであんな高い煙突が必要なんだよ。
ゲリラ それは、やっぱり最近、毒物混入とか、怪しげな話が多いですからね。
ドネツク ああ…、じゃ、煙突は?
ゲリラ 煙突?、やっぱりそれは煙突ぐらい必要でしょう。
ドネツク 煙突、4本が?
ゲリラ ええ。
ドネツク あんな高い奴?
ゲリラ ええ。
ドネツク 赤と白だんだらに塗り分けたような?
ゲリラ やっぱり強、強力な火力で殺菌もしないと、食中毒の、何のことでこう、給食センターのおばさんのせいにとかされたりするか分からないから、
ドネツク ああ。
ゲリラ しっかり殺菌しなきゃ駄目なんですよ。
ドネツク あれ発電所だよ。
ゲリラ え?

ドネツク うん、発電所。
ゲリラ …そうなんですか。
ドネツク うん。
ゲリラ てっきり美味しい給食が食べれると思って楽しみにしてたのになあ。
ドネツク それにあの、仮に給食センターでも、食べられないだろ、な。
ゲリラ いや、小学校に忍び込みます。
ドネツク それ犯罪だろ。うん、そんなことやってるから政権奪取出来ないんだよ。
ゲリラ いや、個人の資質を全体のせいだとは思わないで下さい。
ドネツク ああなるほど…、お前役に立ってないんじゃないか!
ゲリラ …。
ドネツク ますます駄目じゃないの、それは!
ゲリラ いや、必ずしも組織の役にたつ人間ばかりが良い人間だとは思わないので。
ドネツク あー、まあね。それにあの、必ずしも役に立つ人間ばっかりを集めている組織が優秀な組織かっていうと、そうでもないからね。
ゲリラ ええええ。

ドネツク …で、話戻すけどな、あれ発電所なんだよね。…発電所っぽいけども、実は秘密研究施設なんだよ。
ゲリラ 研究施設?
ドネツク 秘密研究施設。
ゲリラ やっぱり…
ドネツク うん。
ゲリラ 新しい給食の内容とか?
ドネツク だから、…兄さんはあそこ行って給食作ってるわけ?
ゲリラ コッペパンにはやっぱり、うーんここの牛乳はあわないぞって。
ドネツク 開発してないだろ、それ。それは何て言うか、給食通かなんかだと思うけどなあ。
ゲリラ じゃあやっぱり、…「ああ、パイナップルの入った酢豚は駄目だ」とか。
ドネツク いやだから給食から離れろよ!あそこは秘密研究施設で、兄さんは連れていかれて、巨ちん兵みたいな巨大央破壊生体兵器を、開発させられてるんだっちゅうのよ。分かったか。

ゲリラ …それが真実だとすると、凄くやばい話じゃないですか。
ドネツク やばいよ!お前らなんかもう、一網打尽というか何というか、もう、…覚えてるだろ、巨ちん兵!
ゲリラ 覚えてますよお!
ドネツク どかーん、どかーん!ってもう。
ゲリラ いやもう、あんなの見たくない。
ドネツク 見境無いからな、あれ!
ゲリラ あんなの見たくないですよ。そんなことになったら、あたしもう、帰ろうかなあ。…で、え、一体その博士をど、どうすりゃいいんですか。
ドネツク どうって、そりゃ取り戻すしかないよ。
ゲリラ 取り戻す。
ドネツク うん。

ゲリラ 取り戻すったって、あんなに高い煙突立ってるしなあ。
ドネツク 煙突の問題なのか?
ゲリラ いやまず、攻略するには煙突を倒さなくちゃ駄目なんじゃないですか。
ドネツク 塀、塀とかじゃないの。「あんな塀高いから」とかさ。「あんなガードマンいっぱいいるから」とかじゃなくて、煙突なの?
ゲリラ ここから見えるのは煙突ですよ。
ドネツク いや、ここから見えるのはね。…行ったらいいじゃないの、現地まで!
ゲリラ いや、だから、一直線に行けば、
ドネツク うん。
ゲリラ 辿り着くのは煙突です。
ドネツク 一直線に行くなよ!、…どうやって行くんだ―一直線にあそこまで。
ゲリラ 飛んではむりですね。
ドネツク 飛べるの?
ゲリラ 投げたら行けるんじゃないですか?
ドネツク 誰を何を?
ゲリラ 綱?
ドネツク 綱?
ゲリラ 横綱? 
ドネツク 横綱…ああ、投げるからね。あー、まあいいよ、次いこうよ。
ゲリラ 次って何ですか?
ドネツク 煙突じゃないだろ!、な。
ゲリラ ああ、問題は煙突じゃない。

ドネツク 問題は煙突じゃなくてあの、あれだよ、門とか、塀とか、ガードマンとか、その辺だろうが。
ゲリラ だったら、あの、これ貸しましょうか?、(麻袋だ。)これかぶって行ったら。
ドネツク これって、これかよ。
ゲリラ いや、これですよ。
ドネツク 怪しいだろこれ!、かぶったらかえって。
ゲリラ いや――
ドネツク ガードマンがアマレス経験者だったらどうするんだよ。あれね、無防備に喰らうとね、ここからすとーんと落ちてすっごい危ないんだよ。
ゲリラ 危ないですね。
ドネツク 胴タックル。
ゲリラ ええ。そんな時は、
ドネツク そんな時は?
ゲリラ 逃げます。
ドネツク ああ…、じゃ、駄目じゃないか。兄さん助け出したいんだよ!
ゲリラ じゃ逃げる振りをして中の方に逃げるのは。
ドネツク 逃げる振りをして中に逃げるわけ?
ゲリラ ええ。
ドネツク ますます危険な人でしょ、それ!
ゲリラ うーん。
ドネツク どんどんこう、何ていうか、わらわらわらわら来るんじゃないの?
ゲリラ 中からぞくぞくですか?
ドネツク そらだってお前、警報は鳴るは、ガードマンは飛んで来るは、もう何か、猛犬とかも来るかもしれない。
ゲリラ 猛犬。
ドネツク 猛犬。
ゲリラ 犬ならまだ比較的得意ですけど。
ドネツク 得意ってのは何それ?、得意ってのはどういう意味だよそれは。
ゲリラ 餌やって手懐けるんですよ。
ドネツク 猛犬ってガードマン連れて来る奴だよ、あの、ドーベルマンとかシェパードとかの奴だよ。,
ゲリラ ええ。
ドネツク こう何かこの辺から涎たーっと垂らしてガウガウガウって奴だよ、あれ。
ゲリラ ああ、麻薬やってる奴ですね。
ドネツク 麻薬はやってない、犬は。
ゲリラ あそうか、あれは麻薬取締犬ですね。
ドネツク 麻薬取締大は、麻薬を識別出来るんだよ。麻薬はやってないよ。麻薬取締犬麻薬やってたら大変でしょ、だってラリっちゃうじゃないのこれ、あれしてる間に。
ゲリラ してるという噂がありますけど。
ドネツク そりゃちょっとは嗅がせないと分かんないからでしょ、刑事さんだってピリッでやって、「ヤクだ。」ってやるじゃないですか。あれ繰り返してヤク中になったら大変でしょ。
ゲリラ いやあの、
ドネツク それで殉職したら、それは殉職な訳?それともその人が悪い訳?、自己責任なの?
ゲリラ ええ、自己責任ですね。
ドネツク 駄目じゃんやっぱりそれ!、だって犬自己責任とれないもん。人間の都合で犬をそんな風に使っちゃ駄目だろう。
ゲリラ でも使ってるっていう噂が。
ドネツク ああ…。話戻すけども、
ゲリラ どこまで?
ドネツク どこまでって、だから、俺はぁ!、…もうその、助けに行きたいんだよ!
ゲリラ じゃあ、巻き戻していっそのこと私が部屋に入って来る前まで戻しましょうか。
ドネツク よし、そうしよう!、な。
ゲリラ (去る)
ドネツク もう、しょうがないな、あれは。(考えて)…でも、煙突は使えるかもしれないね。(去る)

暗転。
スライド『AP通信』、ジングル。

 0時25分になりました。ニュースをお伝えします。

始めに、ハイテル共和国情勢です。

依然、T勢力とB勢力、即ちトランクス軍とブリーフ軍による、内戦状態の続くハイテル共和国では、24日午後、高山彦九郎像とモーニング娘に偽装したB勢力のゲリラ13名が、T勢力により拘束されました。一方、ハイテル共和国の隣国、NP、すなわちノーパンツ連邦は、大規模な戦闘部隊を国境付近に集結させており、予断を許さない状況となっています。

以上、AP通信、アンチ・パンツ通信をお送りしました。

ジングル。
スライド消える。
明転。

ドニエプル博士が椅子に座っている。何やらお碗のような物を持っている。

博士 これは、新しい発明の『回文が言いたくなる帽子』だ。

帽子をかぶる。

博士 …しめじめし。

帽子を外す。

博士 少し、出力か足りないようだ。もう少しこう…。

少しいじってまた帽子をかぶる。

博士 サマンサのサンマさ。

帽子を外す。

博士 …成功だ。しかしこんな事をやっていても少しも気が晴れない。一体いつまでここに閉じ込められているんだろうか。…こんな狭い所に。一応は研究施設らしく整ってあるような感じだが、しかし監視はされているし、明かりと言えば上の方に明かり取りの窓が一つあるきりで…、私はこんな所に閉じ込められていたくはない。大体他人に強制されるのは嫌いなんだ。私は、もうあんな巨ちん兵のような兵器は作りたくないんだ。巨ちん兵が、人を嘗めたり、溶かしたり、しゃぶったりしているのを思い出すと…、たまらない。なんとか、ここを抜け出す手筈は出来ないものか。…分からない。ああ、そう言ってる間にまた、あいつがやって来る音がする。

足音。ギレン登場。

ギレン 博士、御機嫌はいかがですかな。
博士 …良くないね。
ギレン それは残念。ああそうそう博士にいい知らせがありますよ。博士に御同行願うときに一緒に持って来させて頂いた、あの、タンクトップですが、我が軍の量産体制が整い次第、戦線に投入される事が決定しました。
博士 …そうかね。
ギレン さらにいい知らせがあります。先程の会議で、もしも博士が我が軍の研究開発に協力してくれるならば、トランクス軍特製iPodを、プレゼントする事が決定しました。いかがです。
博士 協力はせんと言った筈だ。
ギレン iPodでも?
博士 …
ギレン 生活環境に不満があるんですね。博士、博士の研究の為だったら何でも世話いたしましょう。さあ、不満の生活環境を何でも仰しゃってください。すぐに改善してさしあげましょう。
博士 ここから出してくれ。
ギレン 無理です。
博士 監視は止めてくれ。
ギレン 無理です。
博士 …せめてもう少し大きな窓が欲しいなあ。
ギレン ああ、窓。無理です。他には?
博士 どうせ何を言っても無理だって言うんだろう。
ギレン …そんな風に考えていたら、お互いの理解は深まりませんよ。研究開発環境に不満があるんですね。博士、何か欲しいもの――
博士 開発はせんと言った筈だ。
ギレン いやいや。それは、兵器を開発しないと博士は言ってますが、この際ですからじゃんじゃん好きなものを国家予算単位のお金を使って、がんがん開発して下さい。兵器はついでに開発して下されば結構。こう、国家予算規模の遠心分離機とか、いりませんか?
博士 そりゃあ、そういうものが貰えるなら、貰いたいがね。
ギレン じゃんじゃん仰しゃって下さい。何でも準備しましょう。
博士 遠心分離機は貰えるのかね。
ギレン 貰えますよ。
博士 …じゃ頼む。

欲しいのかよ。

ギレン 他には?
博士 実験用動物とか、欲しいのは欲しいがね。
ギレン 実験用動物。なんなりと仰しゃって下さい。
博士 人間…、はまあ無理だろうから、
ギレン ああ良かった。はい。
博士 カモノハシを。
ギレン …(呟きで)保護されてたような…、分かりました。我がトランクス軍の威信にかけてそろえてみせましょう。どの位要りますか?
博士 300頭。
ギレン 絶滅させる気か!…、すぐに密猟隊を組織します。それで、よろしいですか?
博士 まあとりあえずは…、いやしかしだな、そういう開発は個人的な物ならいくつか
ギレン 何ですか。(脚立にぶつかる)博士、これは何ですか。昨日まではこんな物は無かったはず、いつの間に、まさかあの窓から逃げようと!
博士 いや、それは出来んよ。
ギレン 何故。
博士 それは、『登ると降りたくなる脚立』だ。

ギレン、試しに脚立に登るがすぐに降りてくる。

ギレン …開発部に回しておきます。この調子ですよ博士!、どんどん開発をすすめて下さい。
博士 そんな下らん物なら、ここに一杯あるがね。(鞄を出す)
ギレン それを早く言ってくださいよ博士。(鞄の中をさぐり)この、何かメカニカルな、これは何ですか。
博士 見て分からんかね。

蚊取り線香の缶の中に電子パーツがつまったような物である。

ギレン いやあ、私のような科学の素人にはちょっと。…何です。
博士 蚊取り線香だ。
ギレン (怪訝そうに見ている)
博士 …超強力蚊取り線香だ。
ギレン 一応聞いておきますがどれ位強力な。
博士 まあ、周囲10km位の蚊が全滅するな。
ギレン …開発部に回しておさます。(鞄から白いボウルの様なものを取り出して)これは何ですか?
博士 それは『駄洒落が言いたくなるヘルメット』だ。
ギレン (怪しげに眺めて)一応確かめてみます。(かぶる。)「タミヤ模型から新しいプラモデルが出るそうだ。」「どんなだい?」「メソポ・タミヤ」(脱いで)…開発部に回しておきます。
博士 それは本当かね。
ギレン 何がですか?
博士 メソポタミアのプラモデル。
ギレン 本当ですよ。『ロゼッタ・ストーン』とか出るんですよ。
博士 一つ手配してくれないか。

欲しいのかよ。

ギレン 了解しました。…博士、それじゃあ、今日のところはこれで失礼しますが、何か他に御要望がありましたらすぐに、トイレットペーパーに書いて、ギレンの所まで流して下さい。それでは、良い開発を。

ギレン、去る。

博士 いつまでこんな日々が続くんだ…。私はもうやりきれんのだ。やっぱり脱出手筈を何とか考え出さねはならん。待てよ、私には弟がいる。あの弟ならもしかして助けに来てくれるかもしれない。我々兄弟の絆は深いのだ。…奴に手紙を出そう。幸い紙なら、ここにあるし、ペンもある。
(書き始める) 「弟へ、お前の兄は政府軍の施設に閉じ込められている。」
待てよ、こんなに露骨に書いたら、まずいかもしれないな。誰かの手に渡ったら、これはまずいから、…もう少しこう、間接的に書くことにしようか。

(いったん消して、書き直す)「弟へ、お前の」…、「ブラザーは」ブラザーってのはそのままか…、

(書き直し) 「お前のブラは籠の中、出られなくて悲しい。」
…これで、何かちょっと変なポエムみたいになっただろう。「ヘルプ」って書くのも何だから「地獄の、ぷ」と書いておこう。よし。

これでだな、えー「この手紙を見つけた人は、村一番のバオバブの木の所にこれを届けて下さい。お願いします。」ちょっと署名しておこう。

(書き終えて)
よし、これをだな、紙飛行機にして窓から投げれば、きっと誰かが、受け取ってくれる筈だ。親切な人が弟の所にこれを届けてくれるだろう。私はそれを、信じている。
(折って、紙飛行機にする)よし。
(窓を見て)あそこか。

博士、つい脚立に登って投げようとするが、登った途端に降りてしまう。諦めて下から投げる。(投げた飛行機は客席へ)

博士 よし…。これで、届くに違いない。なにせ我々の絆は固いからな。…弟とは、そうだ、亡くなった父さんにこんな事を言われて…

音楽が流れ、回想シーンとなる。弟と兄(ドネツクと博士)が並んでいる。

博士 弟よ、
ドネツク ああ、
博士 父さんの言った事を覚えているか。
ドネツク 覚えてるよ!
博士 我々は、助け合って生きていかねばならない。
ドネツク そうだ…!
博士 例えば、
ドネツク うん。
博士 ここに、一本の矢がある。
(矢を出す)
これは、一本だと折れてしまう。
(矢を折る)
しかしだな、こうやって
(二本の矢を出し)
二本を束ねれば!

(しかし矢は析れる。

暗転。

ジャジャン、という効果音と共にスライド。『新発明実戦投入』『タンクトップ実戦投入』
明転。ギレン登場。胸のところに砲口のついた袖無し着を身につけている。

ギレン 打てい!
ギレン、砲口からピンポン玉を発射する。

暗転。ジャジャーン、という効果音と共にスライド。『駄酒落ヘルメット実戦投入』
明転。ギレン登場。ヘルメットをかぶっている。

ギレン そのトナカイ、大人かい?

暗転。ジャジャン、という効果音と共にスライド。『登ると降りたくなる脚立実戦投入』
明転。ギレン、走って登場。脚立に量って、すぐに降りる。

暗転。ジャジャン、という効果音と共にスライド。『強力蚊取り実戦投入』
明転。ギレン登場。ぼーっとしている。

ギレン 冬だからちゃうん。

暗転。飛行機通過音。

明転。兵隊らしき男が一人立っている。

兵隊 母さん、元気ですか。この声が、届いていますか。僕は今、戦場にいます。戦場は、想像以上に恐ろしい所でした。今日もまた、敵の爆撃を受け、仲間が一人、爆音に驚いて食べていた大量のカールを喉に詰まらせて死にました。…大量のカールを嚥下、名誉の戦死。ああ、自分は今、正に戦場にいるんだ。命のやりとりをしているんだ!、と実感しました。母さん、遥か最前線では、兵士達が、次々死んでいっています。そして兵士を補う為に今、適性審査官が私達の隊にもやって来ました。適性審査官の審査に引っ掛かれば、有蕪を言わさす最前線に送られる。…兵士達は、極度の疲労と緊張で、ボロボロになって、ロボットのように暗く、命令を聞くだけになっています。母さん、かつてファミコンウォーズのCMを見て笑っていた自分が、恥ずかしいです。あれはまぎれもなく、戦場の現実です。僕は、適性審査官の裏をかいて自ら適性審査に志願しました。なぜなら母さん、僕の夢、…一流の料理人になって、あの、定食屋を再興する!、もう一度、祖国の土を踏み、祖国の人々に、美味しい料理を振る舞う!、その夢を潰えさせる訳にはいかないのです。僕が作りたいのは、憎しみの連鎖ではなく舌つづみの連鎖なのです。母さん、僕は、必ず帰ります!

適性審査官、現れる。

適性審査官N!(Nのポーズ)
兵隊 P!(Pのポーズ)
適性審査官 ここは第3駐屯地前かね。
兵隊 いや、違いますけど。
適性審査官 …失敬。(去る)

しばしして、再び適性審査官、現れる。

適性審査官 N!(Nのポーズ)
兵隊 P!(Pのポーズ)
適性審査官 あれは、第3駐屯地だよねえ。(指さす)
兵隊 …はい。
適性審査官 ここは?
兵隊 …前です。
適性審査官 第3駐屯地前だよね。
兵隊 あっ、そうか。はい。
適性審査官 馬鹿ー。
兵隊 あの、今気付きました。
適性審査官 君はどこの部隊の者だ、。
兵隊 ぼくはあの、…搬送班の者です。あの、武器弾薬とか、食材とか、搬送してます。
適性審査官 ここで何をしている。任務に戻りたまえ。
兵隊 いや、あの、ここで居るのが任務です。
適性審査官 そんな任務ないやろ。
兵隊 いやいや、あのー、ちょっとそこで待機してなって、言われたんですよ。
適性審査官 君の所の上官は誰だ。
兵隊 ヤン、て言います。
適性審査官 はあ?
兵隊 や、ヤン。
適性審査官 フルネームで?
兵隊 あの、…ラインハルト・ヤン。
適性審査官 なめとんか。
兵隊 いやいや、これは名前じゃないですか。
適性審査官 貴様、上官に口答えか。
兵隊 あ、いや、上官?、上官なんですね。
適性審査官 見て分からんか!
兵隊 こんな、何か、
適性審査官 お前の方が偉いかこれで?!(服装を比べる)
兵隊 そんな事ないですよ。どっかこれ、あしながおじさんの方が背が低いって…失礼しました。
適性審査官 貴様は、今、戦時中にも関わらず、非常にリラックスムードだな。
兵隊 そんな事無い!…もう、がちがちに緊張しております。
適性審査官 本当か。
兵隊 はい。
適性審査官 まあとにかく、ここは適性審査で使うので、君は帰ってくれたまえ。
兵隊 適性審査ですか。
適性審査官 うむ。
兵隊 …分かりました。御自由に。
適性審査官 まあ言われなくても自由に振る舞うけど。
兵隊 …(じっとしている。)

適性審査官 何をしてるんだ。
兵隊 いや、あの、ここで待機しているように。
適性審査官 向こうの方に行きなさいよ!
兵隊 (ちょっと離れる)
適性審査官 子供か。
兵隊 ここで待機していろと言われたんですが。
適性審査官 適性審査に使うんだここは!
兵隊 あ、あのう。…わたくしあの、適性審査に、志願した、…あの、ハインリッヒです。
適性審査官 ハインリッヒ?
兵隊 はい。
適性審査官 フルネームは。
兵隊 ハインリッヒ・三郎です。
適性審査官 (リストを見て)…合ってる。
兵隊 え?
適性審査官 …すまん。
兵隊 はい。
適性審査官 細面の美少年が来ると聞いていた。
兵隊 え、あ、そうですか。
適性審査官 いや、褒めてない。
兵隊 あの、眼鏡外した方がいいですか?
適性審査官 訊いてみるか?(客席に向かい)すいません、第3駐屯地にお集まりの皆さん、細面の美少年だと思われたら、拍手の方いただけますか。

客席から、一人拍手をした人が居る。というか、一人しかいない。

兵隊 少し拍手を貰いました。(嬉しそう)
適性審査官 甘ったれんなあ!!(殴る)
兵隊 ありがとう御座居ます。
適性審査官 それで、三郎君。
兵隊 はい。
適性審査官 君は本当に、適性審査を受けたいのかね。
兵隊 はい。僕はもう、適性検査を受けて、ぜひ、あの、料理を作りたいのです。昔からあの、料理の英才教育を受けて生きて来ました。
適性審査官 どんな?
兵隊 例えば、そのう、どの具が…、どの具を入れるか。
適性審査官 ああ。
兵隊 あの、ナツメグと、ナツメヤシの違いとか。

全然違う。

適性審査官 戦時中にそんな物が手に入ると恩うのか。
兵隊 いや、僕の家はあの、超一流の、料理…を、作っていた家あの、定食屋だったので。
適性審査官 帰らしてもらう。(去ろうとする)
兵隊 (引き止めて)お願いです、お願いです!、すいません。あのう、本当に、僕は今、あの、搬送班で、必死に毎日あの、えいこらえいこら、なんやった(天秤棒でものを運ぶジェスチャー)…ま、こんな事してませんけど、何か運んでますが、本当は、この腕で、あの、いつも僕が、あの、父に教えられて作っていた料理を、兵士に食べて貰って!、そしてあのう、戦意を高めて欲しいのです。そうやって僕は軍に貢献したいのです、お願いします。僕をどうか、料理隊に行かして下さい。
適性審査官 …最初からその熱意を見せて欲しいもんだな。
兵隊 すいません。
適性審査官 位が下の者が、上の者に楯突くというのは、それなりのリスクを伴う。
兵隊 はい。
適性審査官 分かっているね。
兵隊 分かっています。
適性審査官 私は、君の気持ちを、確かめたい。本当にどんな困難にも負けず
兵隊 はい。
適性審査官 我が軍の為に、貢献する気持ちがあるかどうか。この適性審査で見たいと思う。
兵隊 はい。お瀬いします。
適性審査官 じゃ、審査を受けるという事で。
兵隊 はい。
適性審査官 同意してくれる訳だね。
兵隊 はい。同意します。よろしくお顧いします。
適性審査官 始めに言っとくけども、この適性審査は、あなたの希望により行うものとします。
兵隊 はい。
適性審査官 この審査の最中、仮にあなたの身に何か起こったとしても、当軍では一切責任を持ちませんがよろしいですか?
兵隊 なんかPL法の説明みたい。
適性審査官 …。

兵隊 …失礼しました。
適性審査官 よろしいですか。
兵隊 はい。
適性審査官 じゃあ、検査に入る前に、簡単なウォーミング・アップから。
兵隊 ウォーミング・アップ?、はい。分かりました。
適性審査官 いちいち口答えの多い奴だな。
兵隊 すいません。もう黙っております。
適性審査官 いいか。
兵隊 はい。
適性審査官 次、私語をしたくなったら、ちゃんと許可を取れよ。
兵隊 分かりました。
適性審査官 えー、得意料理は何だね。
兵隊 得意料理でありますか。…レバニラ炒めとか。
適性審査官 他には?
兵隊 他にはあの、ニラレ…
適性審査官 …。
兵隊 野菜炒めとか。
適性審査官 …炒める以外はないのか。
兵隊 あのう、焼きそばとか。
適性審査官 (あきれながら、フライパンを持つ手付き)こうだな、基本は。
兵隊 そうです。…あのう、まあ、あのう、混ぜ御飯とか、もいいです。
適性審査官 どれくらいで作れる?、一食。
兵隊 まあ2、30分もあれば。
適性審査官 かかりすぎじゃないか?
兵隊 ええ?、
適性審査官 向こうから攻めてきた時に作ってる訳だろ、ぱぱぱぱぱっと作れるのじゃないと駄目だろ!
兵隊 いえ、攻めてきたら、取り合えず…、逃げません?
適性審査官 そんな暇も無い場合やったら、君はどうする!、敵が攻めて来た!
兵隊 攻めて来た!
適性審査官 君は料理を作っている、どうする!
兵隊 ええ…、とりあえず、フライパンで応戦。
適性審査官 馬鹿か!、銃を取れ、銃を。
兵隊 あ、はあ、はい。
適性審査官 フライパンで応戦…、夫婦喧嘩か!
兵隊 いえ、何とか料理の腕でと思って…、フライパンを、持った…。
適性審査官 料理の腕って、…鉄人でもそんな事しないぞお前!
兵隊 …分かりました。以後気をつけます。

適性審査官 まあ、ウォーミング・アップはこれくらいにして、いよいよ適性検査に入る。よろしいですか?
兵隊 お願いします!
適性審査官 (おごそかに)「はい」か「イエス」でお答え下さい。
兵隊 え?、「はい」か「イエス」っておかしくないですか?
適性審査官 私語の前には許可を取れと言った管だ!
兵隊 N!(Nのポーズ)
適性審査官 P!(Pのポーズ)
兵隊 あのう、「はい」か「イエス」って言うと同―
適性審査官 不許可。
兵隊 …。
適性審査官 「はい」か「イエス」でお答え下さい。
兵隊 …はい。
適性審査官 よし。『私は最前線に行きます』
兵隊 いや、ちょっと、ちょっと待って下さい!、いやいや、…N!(Nのポーズ)
適性審査官 P。(Pのポーズ)
兵隊 いやいやあの
適性審査官 貴様には罰を与えねはならん。
兵隊 何でです!?
適性審査官 雑談が多すぎる。気をつけ!
兵隊 はい!
適性審査官 歯を食いしばれ!
兵隊 (歯を食いしばる)
適性審査官 決して痛いと言ってならん!

適性審査官、陶製の散蓮華(ちりれんげ)で兵隊を殴る。

兵隊 痛…!
適性審査官 気合が足りん様だな。
兵隊 …(したり顔で)痛くない!
適性審査官 何でやねん!(殴る)

兵隊、頭をおさえる。

適性審査官 (痛いというかどうかを確認しながら)何だ?
兵隊 ありがたく、お受けしました。
適性審査官 もう一度続けるか?
兵隊 お願いします。
適性審査官 『私は、最前線顔だ。』
兵隊……。
適性審査官 「はい」か「イエス」でお答え下さい。
兵隊 いや、「はい」か「イエ…、N!(Nのポーズ)
適性審査官 P。(Pのポーズ)
兵隊 「はい」か「イエ―
適性審査官 却下。
兵隊 ……つらいなあ。
適性審査官 分かった。「はい」か「イエス」の二択が難しいようだな。
兵隊 はい。
適性審査官 じゃあ、連想検査にうつそう。次の言葉から連想するものを、浮かべて下さい。
兵隊 はい。
適性審査官 『特捜』といえば
兵隊 『最前線』
適性審査官 中々出来るじゃないか。
兵隊 いやあ、そ、…何の検査だろ、
適性審査官 今、何か私語をしたな。
兵隊 してません。あの、…N!(Nのポーズ)
適性審査官 P。(Pのポーズ)
兵隊 いや、あの一応僕は料理人であるということを、審査してくれる審査ですよねここは。
適性審査官 ああ、はあはあ。(てきとうな相槌)
兵隊 料理人、料理隊に行くという、僕の志望を聞いてもらってどうかという審査ですよね。
適性審査官 うん。(気の無さそうに)
兵隊 …。
適性審査官 君の、熱意を私は知りたい訳だ。最初に言っただろ、いろんな困難に立ち向かって、それでも、何か物事をやり遂げる決意があるかどうか、私が知りたいのはただそれだ。君は何か勘違いしとるんじゃないか?
兵隊 いや、勘違いしてません。大丈夫です。料理にかける想いは熱いです。
適性審査官 本当だね。
兵隊 はい。燃えたぎるように。
適性審査官 分かった、若干質問を代えてみよう。
兵隊 はい。
適性審査官 続けるよ。
兵隊 はい。
適性審査官 「はい」が「イエスでお答え下さい。
兵隊 …はい。
適性審査官 『最前線で食べるカレーは最高だ』
兵隊 ……(悲しげに)はい!
適性審査官 『カレーこそが最前線だ』
兵隊 ……(悲しげに)はい!
適性審査官 君の気持ちは重々分かった。荷物をまとめて集合!
兵隊 母さあん!

暗転。ヘリコプターの飛ぶ音が客席を縦断。明転。バオバブの木、登場。

バオバブ …バオバブです。カゴちゃんとツジちゃんの違いが分かりません。

…バオバブです。年末のPRlDE「男祭り」を変な祭りだと思⊃てました。

…バオバブです。ドラえもんの次の声優に、泉ピン子が立候補したそうてす。…幸楽はどうなるんでしょう!

…バオバブです。東北、らくてん、ゴールデン、イーグルス。やっと覚えました。

…バオバブです。オリックスバファローズの、ユニフォームはあれでいいんでしょうか?

…バオバブです。ジーコの戦術が理解出来ません!

…バオバブです。小林幸子は衣装も着ないのに何故紅白に出るんでしょう!

…バオバブです。(客席に)クリスマスに何してるんですか?

…バオバブです。バオバブです。バオバブです。手紙はどこですか?

客席 (無反応。)

バオバブ いや、普通に聞いてるだけなんですけど。

客席 (誰かが捨って示す)

バオバブ こっちへ投げて下さい。

客席 (誰かが投げる)

バオバブ (受取って、読む)「お前の…ブラは、…籠の…、」井上陽水かあ。…これを届ければいいんだな。

ドネツク、現れる。

ドネツク 手紙、手紙は来てないか。
バオバブ (手紙を見せ)着払いだそうてす。
ドネツク 困ったなあ。え、えと。
バオバブ 公務員の方ですか?
ドネツク え、あ、ああまあ。
バオバブ じゃあ無料です。
ドネツク ああ…癒着してんなあ。
バオバブ そういう世の中ですから。(渡す)
ドネツク ありがとう。

バオバブ、去る。

ドネツク やっと、兄さんから手紙が、ああ!…、兄さん無事だったんだ、良かった!一人になって分かるこの、自分のブラザー・コンプレックスぶり。俺はもう兄さんが一日でもいないと耐えられない。今日24日は俺の誕生日だ。あさって26日は兄さんの誕生日だ。あいだの25日はLマガの発売日だ。この3日間を兄さん無しで過ごすなんて俺は耐えられない。兄さん!

ゲリラAが駆け込んで来る。

ゲリラ 博士、博士、博士、博士はどこですか、ああ、博士!(脚立にぶつかる。)博士、博士はどこに。
ドネツク うわあ、また来たあ。
ゲリラ その声は、
ドネツク その声って言われてもなあ。
ゲリラ 弟さんですね。
ドネツク そうだ。
ゲリラ 博士は、…どうしたんてすか?
ドネツク まずは、兄さんは、残念ながら奪還はできなかった。
ゲリラ 何でそれで一人おめおめと帰って来るんですか!、
ドネツク そんな事をお前に言われたくないよ。いいか、俺はなあ、煙突掃除夫のふりをして、あの中まで入って来たんだ。
ゲリラ はあ。
ドネツク 残念ながら、…何て言うのかな、中でも普通に出入り出来るエリアと、非常に厳しく守られているエリアがあって、兄さんは中のエリアの中の一番上の階にいるんだ。
ゲリラ うーん、何故そこまで分かって、助け出せないんですか?
ドネツク だから、中のエリアに入れないからだよ。
ゲリラ 中のエリアはどのような
ドネツク 厳重に警備されている。
ゲリラ 厳重?
ドネツク そうだ。ガードマンだって一杯いるし、こう、何て言うか、ナンバーロックだってあるんだよ。
ゲリラ ナンバーロック。
ドネツク そうそうそう。暗証番号とかしょっちゅう変わる奴だ。
ゲリラ ナンバーロックって、数字の形をした石でしょ。それが?
ドネツク な、
ゲリラ 変わるんですか?
ドネツク いや、暗証番号はな。
ゲリラ 理解が…
ドネツク 数字の形をした石ってどかしたらいいんじゃん。
ゲリラ いや、その石が目まぐるしく、1、6、3、7、って変わるんでしょ。
ドネツク じゃあその変わってる間に行きゃいいんじゃないか。そうだろ。こう、0とか8とか、間を通れる時あるじゃないか。
ゲリラ ああ、穴の中をね。
ドネツク そうそう。
ゲリラ 狙いましょう、それ。
ドネツク いやだからあ!、…数字の形をした石じゃないんだよ、ナンバーロックてのは!、分かったか?
ゲリラ じゃあ一体何なんです。
ドネツク 何かほらその、計算機みたいにな、数字のボタンがならんでて、
ゲリラ ああ、はあはあはあ。
ドネツク そこでこう、数字を入力する訳だよ4桁の数字を。まあ4桁か…、大抵4桁位だろうな。
ゲリラ ええ
ドネツク で、それが合ってたら、鍵が開いて、入れるんだよ。…ただ、その番号分かんないしな、4桁の数字なんて、何通りあるんだよ。
ゲリラ 4桁なら、約1万通りじゃないですか。
ドネツク 大変だろ、それ全部確かめるの。
ゲリラ まあ、腱鞘炎はおきるかもしれませんね。
ドネツク いやそういう大変じゃなくてさあ、
ゲリラ え?
ドネツク 腱鞘炎おきる前にもう何かわらわら人が集まってきて、「お前何やってんだっ!」って、こうなるじゃないかよ、なあ。
ゲリラ ああ。…それが問題でしたか。
ドネツク いやあ、そうそうそう。だから入れないんだよ。

ゲリラ うーん。じゃあ一体、どうすりゃいいんですか!
ドネツク まああの、兄さんが出たがっていることは、間違いない。見ろこれ、これは兄さんから来た、ってお前に見せちゃっていいのかなこれ。
ゲリラ もう、信用できるってことはさっきで分かったでしょ?
ドネツク うー、信用はしてないけど、まあ見せてやろうじゃないか、なあ。(手紙を出す。)見ろ、これは兄さんからの手紙だ!(読む)「弟へ」
ゲリラ おお。
ドネツク 「お前のブラは籠の中」
ゲリラ はー。
ドネツク 「出られなくて悲しい」
ゲリラ はいはいはいはい。
ドネツク 「地獄の、ぷ」
ゲリラ あー、…それは要するに、昨日つけたブラジャーが…洗濯寵の中にそのまま入っていて早く洗って下さいって、そういう事ですね!
ドネツク 俺は着けてないよ。
ゲリラ お母さんですか?
ドネツク いや、お母さんは亡くなってるから、大分前に。
ゲリラ ああー。…怪しいなあ。
ドネツク いやいやいや、何言ってるのよ。
ゲリラ …違うんですか?
ドネツク 違うよお!、何だったら見てみる?
ゲリラ (自分の胸を見る)
ドネツク 違うだろ!、お前は違うだろ、そうじゃないよ、ほらあ。(自分の胸を見せ)
ゲリラ ああ…、でも、昨日はしてたかも。
ドネツク いやいやいや。してないっちゆうの。
ゲリラ じゃ、じゃ、じゃあ一体それ何なんですか。

ドネツク だから、ブラって、ブラザーだろこれ、兄さんだよ。ドクターD、ドニエプル・ドビンスキーのことだよこれは。
ゲリラ 本当に?
ドネツク ああ、これはな、バオバブの所に届いてた手紙なんだよ。バオバブの所を使って手紙をやりとりするのは、兄さんと俺との間の昔からの約束なんだ。
ゲリラ そんな事確かに僕はやったことないからなあ。
ドネツク ああ、まあそうだろうな。…だからいいんじゃないかよ!、お前がやったことあったら、それお前が拾っちゃうわけだろ。
ゲリラ 拾いますよ。
ドネツク で、ああ僕のブラが籠の中だとか言って、喜んでこう、籠の中見にいっちゃうんだろお前は。
ゲリラ 多分、拾って洗濯しますね。
ドネツク 駄目じゃないか!これは俺と兄さんの間の、コミュニケイション方法だからこうやって、ああ兄さんの手紙だってなるんじゃないかよ。そうだろ。いいんだよ君やったことなくて。今後もやらなくてよろしい。
ゲリラ はい。
ドネツク いや、だから出られなくて、ブラは籠の中って書いてある、この籠の中っていうのは、捕らわれの、鳥籠のイメージだよ。
ゲリラ 鳥籠。
ドネツク うん。
ゲリラ でも、鳥籠の中ってのは安全かもしれませんよ。
ドネツク ああ、まあそらな、出たら猫とかに捕まっちゃうかもしれないけどな。これ比喩的なもんだからな。
ゲリラ ああ、そうですか。
ドネツク 出られなくて悲しいって言ってるじゃないか。
ゲリラ うーん。
ドネツク そうだろう。で、「地獄の、ぷ」だろ、これ。
ゲリラ それは何なんですか。
ドネツク ま暗号だろうなあ。
ゲリラ 暗号?
ドネツク 地獄っちゅうたら、…(考えて)インフェルノ?
ゲリラ ドイツ語だったらディ・ヘル。
ドネツク ディ・ヘレノプ。…インフェルノノプ。
ゲリラ インフェルノ…分からないなあ!やっぱり天才の考える事は何にも分からないなあ!
ドネツク 兄さん天才だからな。まあとにかく兄さんは助けて欲しいって事だよ。

ゲリラ そう…、いう事なんですね。
ドネツク うん、そうそう。でな、あの煙突なんだけど、ま、一本だけ、どうもその中央のな、一番奥のエリアにつながってそうなのがあるんだよ。
ゲリラ 一本だけ。
ドネツク ああ。けどな、その我々みたいな、…俺はもともと煙突掃除屋じゃないけども、まあそのなんて言うのかなあ、外注の業者なんかは入れないんだよ。
ゲリラ 煙突の専門家じゃないと無理なんですか?
ドネツク いやだからそうじゃない、…煙突、煙突はね、万一煙突だけ志望したらそりゃ入れるかもしれないよ。で煙突掃除して下までいって上まで戻っておしまいだよそりゃ、煙突はね。俺は煙突の中にはいりたいんじゃなくて、だからその隣のね、真ん中の一番奥の、あの警備の厳重な所にある、一番上のフロアの何か塔みたいなの立ってるんだよあん中にな。
ゲリラ ええ。
ドネツク その、兄さんが居るところに行きたい訳だよ。
ゲリラ うーん。
ドネツク 煙突はいいんだ。煙突はいいんだよ今回。
ゲリラ でもあの敷地内で、外部に対して開放的な所って言ったら、煙突ぐらいしか思い当たらないじゃないですか。
ドネツク いやいや。だからまあ何だろうな、煙突をダシにして行くのはいいけどな。
ゲリラ ええ。
ドネツク でもだから、昔通の、こう、煙突掃除人はそこまで行けないからな。何か方法は、…お前の、その、何だブリーフゲリラの仲間は、いないの?
ゲリラ いや、…いますよ。
ドネツク いくら君が個人的なあれでやってるとしても、いる訳だろ。こないだもな、何人か拘束されたって言って、あんなに拘束されたってやってんだから、いっぱいいる訳だろ。
ゲリラ いや、まだいますよ。
ドネツク いるんだろ。
ゲリラ ファンクラブは1人ですけど。
ドネツク まあまあファンクラブはいいよ、な。何してるんだブリーフゲリラは今。
ゲリラ いや、そりゃあ、みんな、潜んでますよ。
ドネツク いや、潜んでいるのは分かるよ。だから、潜んで何をしてるんだよ。
ゲリラ 潜んで?
ドネツクうん。
ゲリラ いや、それでみんなこう、気配消してるんです。
ドネツク いやだからさ、潜んで、気配を消して、それはその何て言うの、状態でしょ、基本的な状態でしょ。
ゲリラ ええ。
ドネツク そうじゃなくて、潜んで気配を消した状態で例えばその、何時な、政権を奪還する為の直接的な、行動を起こそうと考えているとか、必死に準備しているとか――
ゲリラ いや、そんな事考えたら、気配を感じられますから。察されてしまう。
ドネツク それは何、気配を消す為に気配を消してる訳?
ゲリラ 自己目的化してるんです。
ドネツク そりゃあ…、あれだねえ、政権奪取できないね。
ゲリラ 何だったら念のため確認してみますか?
ドネツクああ…、呼べるの?
ゲリラ 一応、通信手段みたいなものは頂いてるから。
ドネツク ああ、呼んでくれよじゃあ。
ゲリラ うーん。(がさごそと、鞄の中を探す)
ドネツクいっぱい居るんだろう?
ゲリラ いっぱい、いますよう。見たこと無いけど。
ドネツク いやそりゃ俺も、始めてだけどなあ。
ゲリラ よいしょ。

ゲリラA、小さな木製の笛を取り出し、吹く。中央アフリカ奥地の民族音楽か、或いは古代の日本の催事音楽を資料から解析して再現してみました、というような感じのフレーズである。

ドネツク これで来るの?
ゲリラ 来るんだか見えるんだか

他のゲリラ達、ソデ幕の隙間などあちこちから顔だけ出す。

ゲリラ達 しいっ。(静かにするように、と指を立て唇にあてて)

他のゲリラ達、引っ込む。

ドネツク …居るじゃない!
ゲリラ 居ましたよ、今。
ドネツク 居るだけ?
ゲリラ だからさっきから言ってるでしょう。気配は消してるんだって。
ドネツク いつ、行動うつすの?、そしたら。
ゲリラ いつ?、…それは、もう、どうしようもない時に。
ドネツク いま、大分どうしようもないじゃん!だって、兄さん天才だよ。
ゲリラ 巨ちん兵…
ドネツク そうそうそうそう。「た」とか「ち」とか入替えちゃうんだよ。
ゲリラ 開発の危機だなあ。
ドネツク 放っといたらだって、大変だよ。今、今行かなくてどうすんだよ。
ゲリラ いや、でも、そ…、何しろゲリラの幹部じゃないんで、どうしようも…
ドネツク い、今のあれ幹部なの?
ゲリラ いや、それはもう分からないですよ。
ドネツク あそう、初めて会ったの?
ゲリラ ええ、ええ。
ドネツク どうやって入隊するの?、初めてなのに。
ゲリラ え?、そりゃあ、やっぱり…、自己増殖って奴ですか。
ドネツク 自己増殖?
ゲリラ ええええ。どうしよう、どうしよう。
ドネツク 俺もいつか気付いたらなってたりするのか、そしたら。
ゲリラ それはもう。
ドネツク 怖いなあ。
ゲリラ どうしましょう。
ドネツク 本当に怖いのはそうやって人が増える組織のような気はするけどね、俺もね
ゲリラ 内部的に。
ドネツク そうそう。
ゲリラ ああ。
ドネツク 何か、じゃあさ、何だ、つまりその、例えば、何だろな、航空兵力が残ってて、あの一番真ん中の煙突の上まで連れてってもらうとか、そういうことは出来ないのか?
ゲリラ ええっと…
ドネツク まああんな、毎日ヘリコプター奴等が飛ばしてたら無理か。
ゲリラ な、無いですねえ。うちに今残されている戦力と言ったら、えーと…、ああ
ドネツク 何だ、あるのか?
ゲリラ もうこの前絶滅してしまいました。
ドネツク じゃ駄目じゃないか。
ゲリラ 野性のフタコブラクダ最後の一頭。
ドネツク いやいや、野性のフタコブラクダ…、最後の残存勢力だったんだ。
ゲリラ ええ。
ドネツク …野性なんだろ、それ。お前らの兵力じゃないだろ。
ゲリラ 丁重に扱ってたんですよ。
ドネツク 野性だろ、それは。
ゲリラ 死んじゃったから駄目だな。

ドネツク 何か、ないのかな煙突の上まで行く方法って、そしたら。
ゲリラ うーん、…なら、
ドネツク ヘリも飛行機も無いのか。
ゲリラ 走る、歩く、飛ぶ、そり。
ドネツク と、飛べるのか?、ちょっと待った、最後のそりってのは何だ。
ゲリラ ええ?
ドネツク そりってのは何だよ。
ゲリラ ああ、…いや、いやまあ、シーズンかなあ、と思って。
ドネツク 飛ぶそり?
ゲリラ ええ、トナカイつけてやったら飛ぶんじゃないかと。
ドネツク いや、飛ぶかなあ。
ゲリラ あ、ならちょっと飛ぶかどうか確認してさますわ。
ドネツク あ、いや、必要ないと思うけど、まあ…
ゲリラ そうですか?、でもどっかの法律では、ついこないだまで、空をトナカイが飛んでもいいんだって決まってたんだったって。
ドネツク 何かそういうの、真面目に位置、追跡してる国があるよね。現在地をね。
ゲリラ ええええ。…訊いてみましょうか?
ドネツク 誰に?
ゲリラ 分からない…。
ドネツク ああそう。難儀やな、君。
ゲリラ とにかく、行ってみます。また、ここに戻ってきて、博士助けに行きますからね!(去る)
ドネツク 戻って来なくていいよ。…訳わからん奴だなあ。うーん、しかしだなあ、…煙突かあ、そりねえ、アラスカに伯父さんがいたよ。そういえば。(去る)

暗転。転換音。
明転。

博士が椅子に座っている。

博士 何だか周りが騒がしくなってさたようだ。何かが起こっているんだろうか。…弟に手紙は着いたんだろうか。まさか弟が助けに来てくれた…いやいや、そういう風に勝手に思い込んではいけないのかもしれない、しかし、そういう風に考えたく、なる…。もう、ここに閉じ込められてどれくらい経ったのだろうな、2週間位になるか。時間の感覚がもう分からない。…そうか、そういえばもう世間ではそろそろクリスマスになろうという時なのかもしれない。…ここは一つ、落ち着く為に、クリスマスを、クリスマスの音楽でも…

博士、後ろの方からピアニカを取り出してさて、「♪もろびとこぞりて」を吹く。

博士 …いかん、また奴が来た。

ギレン、登場。

ギレン (拍手をして)いや、博士、結構な演奏の腕前で。それにしても博士、ようやっと、我が軍に協力してくれる事を決意したという訳ですか。
博士 誰がそんなことを言った。
ギレン 今の曲、それはトランクスの歌ではないですか。「♪主、はきませり、主、履きませり〜」これは、諸人がこぞって、主がトランクスを履くのを、お待ちになっていたという歌ではございませんか。
博士 知らん。そういう解釈もあるんだろう。

ないよ。

ギレン しかし博士、状況が、かなり切迫してきました。ちょっと悠長なことを言ってる場合ではなくなってきました。博士にもここは一つ、早急に我が軍に協力して貰わなくてはならない、そういう事情が出てきました。
博士 協力はせんと言ってる筈だ。
ギレン しかしね、博士。ブリーフゲリラの奴等がとうとう行動を起こすという噂が流れてるんですよ。ついこの間もこの施設の煙突に、進入した形跡があります。いいですか、博士。我が軍の情報部の調査によると、先の「ぢの七日間戦争」の折に製造された巨ちん兵、どうもシリアルナンバーが、配置された物と合わない。一つ、ずれている。…博士何か御存知なのではないですか?
博士 …知らんね。
ギレン そうですか。…いやね、知らんと言うならば、ちょっと聞いて貰いたい物がある訳ですよ。

ギレン、奥から闇鍋の具材を書き出した大きな紙を持って来る。

ギレン 投入物一覧。白菜、ネギ、はんぺんの団子、えーと、ホウレンソウ、…聞き覚えはありませんか?

*この日の具材は他に大きな蟹、ミミガー、ゆであずき、等であったと思う。ちなみに出汁は鶏ガラでした。

博士 それは…、貴様。私の家の押入れの中を覗いたな。
ギレン ふっふっふ。いかにも。いいですか博士、巨ちん兵の設計図はもう手にしているのです。協力しないと言うならば、…どうしても協力しないと言うならば、今日は少し、痛い目にあって貰わなければなりませんよ。
博士 それで、その、巨ちん兵の設計図を完成させようと言うのかね。
ギレン ふっふっふ。そうですよ。実は我が軍の開発部は、もうこの通りに作ってみた…、だが、どうしてもただの鍋みたいになってしまうんた!、何か隠してるでしょ、博士。何か隠し味みたいな物が…、必要なんでしょ。それを教えてくれないと、もう、状況は切羽詰まっているんです。
博士 貴様には教えんと言ったはずだ!
ギレンふっふっふっふ。今日という今日は、痛い目にあっても教えてもらうと言ったでしょ!

ギレン、博士に詰め寄り、腕を掴む。

博士 な、なっ!

ギレン、博士の指を開かせ、指の間にナイフならぬ角材を往復させる。当然きれいに出来る訳もなく、材は指によくぶつかる。

ギレン 痛くないですか。
博士 ちょっと痛い。

ギレン、もっと激しく往復させる。

博士 痛い!(逃げる)
ギレン これでもまだ教えないと言うんですか?
博士 …あれは危険な物なんだ。
ギレン じゃあ、次行きましょう。(襲いかかろうと)

博士、逃げて脚立の後ろに回り込む。

ギレン それで何処へ逃げるというんです。登ってみますか?(脚立の隙間から材を差し込んで攻撃する。)
博士 やっ…、(かわす)
ギレン 降りたくなるのが自分でもあ、ああっ。

博士、脚立を登って上の方のどこかに隠れる。(暗幕の陰で客には見えない)

ギレン ああ…。

ギレン、暗幕を振り落とし、ロッカーの上に登った博士を露出する。

ギレン まあいいでしょう。そのようなロッカーの上に逃げても無駄!、脚立を外しちゃいますからね。おまけに、私はそこに今からゲジゲジを1万匹投入します。それでも、白状しないというならば、それはそれ。しかもそこから降りられないように、私はここに、蓄光テープを張りましょう。これがどういう意味を表すか、博士も役者なら御存知でしょう。…こっから先は、見切り線です。こっからこっちへ来ると見えちゃいますからね。
博士 何てことを。
ギレン ふっふっふっふ。じゃあ博士ここで充分考えて、下さい。

突然、明かりが消え、警報が鳴る。

ギレン おおっ!、…ああ、あああ!(言いながらわざとらしく自分で自分に目隠しをする。)停電だあ!
博士 これはどういう事だ!
ギレン 畜生!、ブリーフゲリラの奴め!、もう進入してきたか!、遅かったか、畜生!

ギレン、畜生、畜生、と叫びながら何処かへ出てゆく。

博士 …一体何が起こっているんだ。何にも分からないぞ。

ドネツク、サンタの衣装を着て、何故かやはり目隠しをして登場。

ドネツク 本当に飛べたあ。(脚立にぶつかる)あいたたた。…ああ、やりすぎたなあ…電気系統を壊したのはいいが、真っ暗になってしまった。ええっとお…。(また脚立にぶつかる)あいたたた。何だこりゃ。
博士 何だか声がするか、…聞く覚、聞き覚えのある声のような気がするなあ。
ドネツク 聞き覚えのあるかみ方をしているぞ。…兄さん!
博士 こ、この声は。
ドネツク 兄さんか?
博士 私を兄さんという、…お前は、弟か!
ドネツク そうだ、弟の、ドネツク・ドビンスキーだ。
博士 ド、ドネツクか。
ドネツク そうだよ。
博士 本当にドネツクなのか。助けに来てくれたのか。
ドネツク そうなんだ、(進もうとして、見切り線の所で止まる)ああ!、暗いけど、蓄光だから見える!
博士 おお、そこが見切り線だ。しかしなあ、そっから向こうは…、見えてるんだ既に。
ドネツク ええ!?、どっ、ど…、この向こうに俺は行くことは出来ないよ兄さん!
博士 剥がせばいいだろう。
ドネツク そうか。(平然と蓄光テープを割がす。)…、これでよし。兄さん今行くからな。…とっとっとっと、兄さん何か上の方にいるのか?
博士 いやちょっと待てよ。今、お前は弟と言っているが、お前が本当に弟だということが、果たして、…弟と偽っている贋物かもしれない。
ドネツク ああ…、まあ、そうか…
博士 この頃物騒だからな。
ドネツク そんな事言われても困っちまうな。
博士 お前が本当に弟だと何か証明してみせてくれないか。
ドネツク しょ、証明って…、ど、どうしたらいいんだよ。
博士 いや、だから例えばだな、我々しか知らないような事とかだな、何か、あるだろ。…例えばだな、お前が大切にしていた、おおた慶文の画集をどこに隠していたか。

ドネツク …兄さんそれいつ知った。(うろたえて)いいか兄さん、俺は別になあ、こう、ああいう、こう、アンハッピーそうな少女アートがどうとか言うんじゃなくて、ア、アートとして俺は持ってるだけだよ!
博士 別に恥ずかしがる必要はない。
ドネツク そう言われるとますます恥ずかしい。…だから、ビニール袋にいれて、あの米櫃の中に隠してあるよ。
博士 そうか、それは知らなかった。
ドネツク …まあ、こんな事俺にするのは兄さんに違いないな。そうだろ、兄さん分かってくれたろう。
博士 まあ、確かに。…というか分かってたけどな。
ドネツク 兄さん、今俺の右手には、拳銃が握られているって事を忘れないでくれ。…まあいいや、ただ一人の兄さんだから。さっきあの脚立があったから、これで助けにいってやるよ。

ドネツク、脚立を持って行く。

ドネツク 大丈夫かな、兄さん、届くかな。今行くからな。

ドネツク、脚立に登るがすぐ降りて、不思議そうな顔をする。

ドネツク …兄さん?
博士 私が降りるよ。
ドネツク ああ。…兄さん、気をつけてくれよ。何かな、その、最近ブリーフゲリラの奴がやたらしつこく付さまとって来るんだ。あれはなあ、もしかしたら俺は兄さんごと、この施設をあいつ破壊するつもりじゃないかと、疑ってるんだよ。あんな奴が――

ゲリラ、鍋をかかえて現れる。やはりサンタの衣装を着て目隠しをしている。

ゲリラ どっこいしょ。
博士 何か気配がするぞ。
ゲリラ おおー。
ドネツク 兄さん。落ち着いてくれ。
ゲリラ やっぱりここは給食センターだったんだ。あー、暗闇に乗じ―、おおおっ

ゲリラとドネツク、ぶつかる。

ゲリラ どちらさんですか。
ドネツク どちらさんですかって、そういうお前は、
ゲリラ ああっ、そそ、その声は!
ドネツク ドネツク・ドビンスキーだよ。
ゲリラ ちょうど良かった!ちょっとこれ、持ってて下さい。いいですか、(鍋を手渡す)覚悟してください、重い、重いですからね。
ドネツク (受け取って)あつつつつい!
ゲリラ あと、バランス微妙に保たないと溢れるから!、何だったらちょっと前の人に頼んで、溢れないかどうか見てもらいながらトライしてね。
ドネツク あつうっ。
ゲリラ んじゃあ、ちょっとね。
ドネツク これどうすりゃいいんだよ!
ゲリラ 待ってて待ってて。(奥の方へ行き、何やらがさごそとしている。)
博士 一体何が起こっているんだ。
ドネツク さっぱり分かんないよ兄さん!…、あ、あれは、危険人物だよ、兄さん。
博士 危険人物。
ドネツク ブリーフゲリラなんだよあいつは。
博士 早く逃げよう。
ドネツク そうなんだよ兄さん。でも俺今逃げらんないわ。(鍋を律儀に持っている)

ゲリラ よいしょ、よいしょ、(高さ1m位の台を持ってくる。)よっこらしょ、ほいしょっと。(舞台中央に置く)
ドネツク うわわわ。
ゲリラ はい。
ドネツク (台の上に鍋を置く。)
ゲリラ はあー、これで一安心だ。
ドネツク お前――
ゲリラ さあー、食べよう。
ドネツク お前まさかこの兄さんごと、まさかこの研究施設を破壊しようとか思っているんじゃないだろうなあ!
ゲリラ に、に、兄さんで?、
博士 ?
ドネツク 博士だよ。
ゲリラ いるんですか、博士!
博士 ああ、ああ私が――
ゲリラ ああっ、博士!
ドネツク いやいや駄目だよ、
ゲリラ いや、いやじゃあ、博士の健康を祈って、…鍋?
博士 一体どういうことだね。
ドネツク あち、あちあち。鍋なの?、これ。
ゲリラ 博士の、無事安全を祈願して、…この匂いは、何でしょう。
博士 この匂いは、…ちょっと待て。この匂いには何か覚えがある。
ドネツク 兄さん、どうしたんだ。
博士 いや、確かこれは…、まさかとは思うが、…食べてくれ!
ドネツクゲリラ ええ??
ドネツク たべ、食べるの
博士 早く、早く!
ゲリラ 早く、早く?、じゃ、いただきますね。
ドネツク あ、何か落ちた。(金属の落ちる音がした。)あ、俺の拳銃か、失礼した。

ゲリラ、鍋の中の物を何か、箸でつまみ出す。

ゲリラ これは何だろうなあ。(食べる)…あふい(熱い)!…んん?
博士 早く食べるんだ早く、早く。
ドネツク いや、兄さん。
ゲリラ あんはふひおお。
ドネツク 食ってるなあ。
ゲリラ んっんっ、んっんっ。(箸を差し出す)
ドネツク えええ?
博士 お前、お前も早く食べろ。
ドネツク ちょっと待ってくれ兄さん。
ゲリラ ふぉうお。
ドネツク えええ?
博士 (ゲリラに)どうだね?
ドネツク 分かんねえよ、食ってねえから。
博士 いやいや、食べた人に聞いてるんだ。
ゲリラ んー、ちくわ?、ちくわ?
博士 竹輪の様な物か。
ゲリラ うんうん。
博士 そうか…、なるほど。それはいい所を食べたな。
ドネツク (鍋の中身から何かを取り出し、食べる)あひ、あひ、あひ。
博士 弟よ、どうだね?
ドネツク ひょっと待ってくれ…
ゲリラ やっぱ博士に褒めてもらわなくっちゃな、うーん。(鍋をまたつつきだす)
ドネツク 兄さん、これ豆が鞘ごと入ってる。
博士 豆が鞘ごとか。…奴等め、ちょっとレシピを間違えたらしい。
ドネツク 兄さん、何だ?、知ってるのか?
ゲリラ (次のを食い)これは餃子だ。
博士 餃子かあ。君は中々いい所ばっかり食べるじゃないか。うーん。

博士は何を期待しているのか…

ドネツク 箸、箸は一つしかないのか。
ゲリラ ひろつしかないみらいらねえ。(渡す)
ドネツク (次のを食おうとして)…。
博士 何だね。
ドネツク 何か兄さん、俺ヒットしたみたいだ。
博士 勇気を出して食べるんだ!
ゲリラ 博士もこういってるんだ!
ドネツク お前ら他人事だなあ、おい。…何だこれ。(食べる)ソーセージじゃん。
博士 ソーセージの様なものか!、なるほど。それは、あれだなあ。
ドネツク 兄さん、何今の、のような?
博士 ソーセージ、のような、モノに、つながっている部分らしい…
ドネツク 兄さん?
博士 いや、それは大事な部分だ。
ゲリラ 食べちゃわなきゃ早く。
博士 当然だ。…というか、それが、かなり中心を占めている。おそらく。
ゲリラ いやー、私もどっか中心を狙って。…中心だなあ。
博士 …。
ドネツク 兄さん、逃げようよ、こんな事してないで。
博士 いやいや、これは、ここに、これを食べることがな、非常に重要なんだ。
ゲリラ 何か餅みたいなもんだ。
博士 逃げる事よりも重要だ。…もち?、もちかあ、もちっとしてるのかね。
ゲリラ にしてはちょっと…、粘り気が少ない。
博士 粘り気が少ない餅のようなもの。うん、何んだろうな。うーん。
ドネツク 兄さんそうじゃないだろ!
博士 いやいや、これは食べることに意義があるんだ。
ドネツク 意義が?
博士 何故かと言うとだな。
ドネツク うん。
博士 何故かと言うと、
ドネツク 何故かと言うと?
ゲリラ (餅の様なものを飲み込んでから?)何故かというと?
博士 何故かと言うと、
ドネツク うん。
博士 これは、
ドネツク うん。
博士 おそらくは、
ドネツク おそらくは、
博士 …巨ちん兵の脳みそだからだ。
ドネツクゲリラ 巨ちん兵の脳味噌!?
博士 脳ユニットと言ってもいいな。
ゲリラ 脳ユニット…

明かりが点く。

ドネツク な、何か(目隠しを取る)
ゲリラ 明るくなった。(目隠しを取る)

ギレンが走り込んでくる。

ギレン だああっ!、(3人の様子を見て)わ、わあああ!、き、貴様あ!
博士 遅かったな。これで、もう動かないぞ。
ギレン 何という事をしてくれたんだ。
ドネツク 何て事って。
博士 一番大事な部分は弟が食べたからな。
ギレン これが何だか分かっているのか、貴様ら!
ドネツク いや、今聞いたけどな。
ゲリラ 脳ユニット。
ドネツク 脳ユニット。
ギレン 巨ちん兵の脳ユニットだ!、これが無ければ、巨ちん兵が動かないではないか!
ドネツク そんな物は無くなった方がいいんだ!
博士 そうだ!
ギレン 貴様ら、状況を知らないからそんな事が言えるんだ。
ドネツク 状況だと?
博士 どういう事だ。
ギレン 聞こえないか、…ノーパン軍が攻めて来たんだ!
博士ら3人 ノーパン軍?
ギレン ノーパン軍がとうとう、攻めて来たんだ!、脳ユニットが無くて、巨ちん兵が無かったら.我が国がどうやってノーパン軍に対抗出来るというんだ!
ドネツク ま勝てないなあ。
博士 そんな事は私の知ったことではない!
ギレン あ、おああ!

ギレンの背後からノーパン軍登場。機関銃を突きつける。
上官らしき男(適性審査官)と部下(三郎・バオバブ)の三人組である。

NP上官 そこまでだ。おしゃべりが過ぎるようだねえ、トランクス君。
ギレン 畜生。
博士 こいつらが、ノーパン軍
NP上官 おかしな真似をしたら、撃て。リラックスしていたら罰を与えなさい
ドネツク こいつらノーパン軍か兄さん。
ギレン こいつらだけじゃない。見ろ。ここに沢山、こんなに沢山もう、ここまで攻めて来ているんだ!(客席を指差す)
博士ら3人 おお…
NP上官 お前らはもう包囲されている。
ドネツク ほ、包囲。
博士 この人達がみんな、ノーパンなのか。
ギレン 訊いてみてもいい。(訊きに行こうと)
NP上官 ちょっと待て。お前、なんでそんなにリラックスしてるんだ。
ギレン それは高貴な生まれだからだ。
博士 (双眼鏡のような物で客席を見ようと)
ドネツク 兄さん、それ駄目駄目駄目。
NP上官 しかしまあ、クリスマスだ。10分だけお前に時間をやろう。訊きたかったら行ってみろ。
ギレン 何を?
NP上官 何か訊きたい事があるんだろう!

ギレン、客席に行きお客さんに訊ねる。

ギレン 本当に履いてないですか?
客 …。
ギレン 恥ずかしがってるけど、本当は履いて無いんですよ。(嬉しそうに決めつける。)
博士 (双眼鏡のような物でNP上官を見ている。)
ドネツク 兄さん、駄目だって、それは。(双眼鏡のこと)
博士 いやいやいや。

そう、双眼鏡には透視能力がある(という設定な)のだ。

NP上官 (気がつき)罰を与えたまえ。
博士 しかしだな。
NP三郎 いいんですか?
ドネツク 兄さん、どう?
ゲリラ どう?
博士 いや、昔通だ。
ゲリラ 普遍?
ドネツク 普通かあ。
NP上官 歯を食いしばれ!
博士 え?
NP上官 決して痛いと言ってはならん!(散蓮華を持ってせまる。)
博士 な、なんだね。(逃げる)
NP上官 往生際が悪いんだ。(追いかける)
ドネツク 兄さん天才だからなあ。
博士 なな、な、何をするんだ。
ドネツク 蓮華で叩くんだと思うぞ、足さん。

NP上官、博士を散蓮華で叩く。

博士 痛いじゃないか!
NP上官 当たり前だ!、おかしな真似をするな!
ドネツク 兄さん、よほど見られたのかこたえたんじゃないか、あれは。
博士 いやあ、普通だったがね。
ギレン これで分かったか、とうとうノーパン軍か攻めて来たんだ!
ドネツク 攻めて来たのはもう分かったよ。こんなに一杯いるじゃないか。
ギレン 我々は降伏するしかないんだ!、それがどういう事だか、お前ら本当に分かっているのか!
ドネツク いやあ、もう、お前らの政府もひっくり返るんだろ。
ギレン それだけじゃない!
ドネツク 俺たちはどっちでもいいんだよ、もう。
ギレン 明日から、パンツ無してすごさなければならないという事だ!、分かるのかそれが!
ドネツク ぱ、パンツなし?
ギレン パンツなしたぞ。
ドネツク 履いちゃいけないのか!
ギレン そうだ。いいか、今までの人生の、ありとあらゆる、悲しいときも、苦しい時も、涙を流す時も、今までいつもパンツと共にあっただろう!
ドネツク そりゃ履いてたよ!、いつだって!
ギレン 部活が終わって、汗を流して、夕日に向かって走ったときも、パンツを!履いていただろう!
ドネツク 履いてたよ!
ゲリラ ああ!
ギレン よ、夜中の、林の中で、林の中のほそい道で、こっそりと、…こっそりとじゃないな、まあいいや、
ドネツク な、何だ。
ギレン 恋人の手を始めて握った時も、
ドネツク い、いやらしいわ、そりゃ。

「こっそり」だったら痴漢だよね。「そっと」あたりが正解か?

ギレン パンツを履いていただろう!
ドネツク 履いてたよ!
ギレン お前だってあるだろう!、思い出してみろ!
ドネツク そりゃ、俺だってあの、こぼれていたのを岡野が押し込んで、始めてワールドカップ行きを決めた時、「やったーっっ!」って言って俺も、履いてたよ!

ジョホールバル。もう8年前である。ほとんどのお客さんはまだ、小学生とかだろう。

ギレン 履いてただろう!
ドネツク 履いてたよ!
ギレン (ゲリラに)お前もあるだろう何か!
ゲリラ うん。そういえば、…小学校の、小学校に行って始めて自力でトイレに行かなくちゃならなくなった時も、残念なことに、履いてたよ!
ギレン そうだろう!
ドネツク つらい思い出だ!
ギレン それが、明日から、履けなくなるんだぞ!
ドネツク 履けないのか!
ギレン なあ、どんなに悔しいことか!、もう、ブリーフとか、トランクスとか、そんな事はどうでもいいんだ。もう履けない事に比べれはそんなのは、ちょっととの差だ。
ドネツク そうだ…。
ゲリラ そうかもしれない。
ギレン お前はゲリラだな。
ゲリラ そうだけど。
ギレン …迫害してすまなかった。
ドネツク パンツだけに「履く害」
ギレン 俺は、お詫びに、この、…何かいろいろ取れちゃったけど、トランクス軍の総帥の、これをやろう。(上衣を脱ぐ)
ゲリラ じゃあ、こっちも。ただで貰う訳にもいかないし。じゃあ、今日の上衣を。(上衣を脱ぐ)

ギレンとゲリラ、お互いの服を交換する。

博士 よく分からないがこれはプレゼント交換会か何かか?
ギレン ゲリラっ!(ゲリラに抱きつく)
NP上官 人間切羽詰まったら何をするかよく分からない。

ホントですね。

博士 そうだなあ…。
ゲリラ ん?
博士 いやいや、せっかく何がプレゼント交換会みたいな感じだから、私も何か、プレゼントしなくちゃいけないのかな。
ドネツク さすが兄さん、いや、兄さんは天才だからなあ。
博士 まあ、せっかくだからなあ。
ゲリラ つ、ついでだから貰っちゃおうかな。

博士、ごそごそと色々な物の入った鞄を出してくる。

博士 じゃあ…、どうしよう。
ドネツク 色々あるな。
博士 これは、どうしようか。あなたに、あげようか。(ギレンに渡す)
ドネツク 兄さん、これは何だい。
博士 それは、『扇ぐと温かくなる団扇』だ。
ドネツク 扇ぐと温かくなる団扇!
ギレン (扇いで)ああ、あつ、けど、せっかく貰ったこれ(上衣)、脱ぐ訳にはいかない。暑うー!、ああああっ、死にそう。
ドネツク さすが兄さん、凄いな。

博士 じゃあ君には、これを。(NP三郎に渡す)
ドネツク 兄さん、それは何だい?
博士 それは、『貧乏ゆすり強制ギプス』だ。
NP三郎 貧乏ゆすりしてないです。
博士 いや、貧乏ゆすりを強制的にさせるギブスだから大丈夫だ。
NP三郎 (はめる)うわー、(貧乏ゆすりをする。)さすが天才だ。

博士 じゃ――
NP上官 俺はいい。
博士 いいのか。(出しかけて止まる)
NP上官 (見て)ああ!
博士 ?
NP上官 (我慢して言っている感じで)いい。
博士 いや、あの遠慮しなくても…
NP三郎 貰った方が…
NP上官 いや…、(迷いつつ)敵に情けは受けん!
ドネツク それはあの、死ぬときに言う言葉だよなあ。これから処刑される時に言う言葉じゃないそれ。
博士 まあ、そう遠慮なさらずに。(渡す)
NP上官 どうしてもというなら。(しぶしぶと、取る)
博士 『舐めるとちょっと幸せになるキャンデー』だ。
NP三郎 あ、いいな。
ドネツク いいじゃんいいじゃん。
NP上官 そんなことある訳がないだろ、(何だか嬉しそう)
NP三郎 まだ舐めてないのに。
NP上官 こんな、キャンデー舐めた位で、幸せになれますかい(舐める。途端に物凄く幸せそうな顔になり、誰だったか隣にいた者に抱きつく。)
ドネツク すげえな、兄さん流石だ。

博士 じゃ、君には、『早口言葉がいいたくなる帽子』だ。(NPバオバブに渡す。)
NPバオバブ (かぶって)なまむぎなまごめなまたまご、なまむぎなまごめなまたまご、きくくりむきくりむくきくり、あわててきく…、言いたくなるだけで、言えるようにはならないな。
ドネツク さすが兄さん天才だ。

博士 そしてまあ、お前はせっかくの誕生日だから、
ドネツク ありがとう。
博士 これだ。(傘をだす。)
ドネツク 兄さん、これは、どんな傘だい。
博士 空飛ぶ傘だ。
ドネツク 空飛ぶ傘!
博士 どうだ。
ドネツク 兄さん、スイッチを入れてくれ。
博士 ああ、行くぞ。スイッチ,オン。

音楽。

NP上官 ん?
ギレン ああ、
皆 ああー…。(上を見上げるようにして、しゃがんでゆく。)

暗転。
音楽は再び冒頭のワルツに。

スライド (傘をさした2人のイラストが、天井へと登ってゆく。)
スライド 『隊長、夫確認飛行兄弟です。』
スライド 『撃ち落とせ』
スライド (撃たれる2人のイラスト)
スライド (落ちてゆく2人のイラスト、天井から再び壁へ。)
スライド 『完』

おしまい。
(*カーテンコールの後、やみなべは希望するお客さんたちに振る舞われた。)

今回下品だなあ、ちょっとな。

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