14回やみいち行動、上演の記録

第14回やみいち行動   (2002 12/20 24:00〜)

『忠臣ぐら』

登場人物
大石……吉本和孝
堀部……桶雅景
主税……池田一平
家老……鬼豚馬
吉良……藤原康弘
浅野(幽霊)……故太郎

……猫
浪士……お客さん

語り……駒田大輔

暗闇である。そこに蝋燭がともる。語り部が浮かび上がる。

語り ええ、皆さん、今晩は。…本日は、第14回やみいち行動に寒い中、おいで下さいまして、どうも有り難う御座いました。
いやあ、本当に寒いですねえ。そう、こんな寒い冬の夜には、遠い昔のあの日の出来事が、しきりと思い出されます。…あの出来事があったのも、こんな、寒い冬の日の事でありました。…皆さん御存知の、『忠臣ぐら』、ではそろそろ、始まりとさせていただきます。

語り部が拍子木を打つ。スライドが映写される。

語り 『ぐりアンドぐら』

遠い太鼓の音のような音楽がゆっくりと入ってくる。

語り 「のねずみの、ぐりとぐらは大きな籠を持って、大奥へと出掛けました。」

「僕等の名前はぐりとぐら。この世で一番好きなのは、お料理すること、食べること。ぐりぐら、ぐりぐーら。」

「しばらく行くと、大きな卵がありました。

「オウ、ホワットアビッグエッグ、イットイズ!」

「何で英語やねん!」

「僕のデンプシーロールで、この卵を叩き割ってみよう。」

「ぐりの上体が、無限大の記号の軌跡をえがきました。」

スライドは消え、音楽が大きくなる。語り部は蝋燭を消す。

明転。大石が座っている。

大石 有り得ない…。秋じゃというのに、なんじゃ?、この、行き詰まるような感じは。…歳じゃろか。

選択、2つに1つ。…飯を食えば太る。食べねば…しんどい。…太りとうはない。誰かおらぬか(呼び掛ける)、誰もおらぬな。…怒られる前に、一つ食えという事じゃ。(何か食べる。頬張りながら)うまい。一度こうやって大きい所で一人で菓子を食ってみたかったのじゃ。

…秋じゃのう。

金属的なノックの昔。

大石 (頬張りながら)ほなたかは。

堀部 堀部です。

大石 おふぁいりくらはい。
堀部 (入ってくる。)大石どの、大石グラの助どの!
大石 んん!
堀部 どうなさいました。
大石 (喉がつまったのか?
堀部 大石どの、大石どのは、この度我等が主君、浅野たグリ頭(のかみ)様に起こった事をどの様にお考えか!
大石 ……うん!
堀部 それは、どういう事でござる。
大石 あいうえおの「う」と、わをんの「ん」で、「うん]。
堀部 それが、大石殿の、…阿穂藩三千の藩士の命運を握る者としての、答えでござるか。
大石 …飲んでおられるのか?
堀部 場合によってはそれがし…怒りのあまり!…我を失う事もあるかもしれませんぞ。…大石殿、仇討ちで御座ろうが!

大石 しかし、堀部殿、わしはまだ信じられんのじゃ。
堀部 と、申されますと。
大石 確かに、大事な仕事の最中に、ピクニックに出掛け、拾って卵を食べたのは、悪いことだ。
堀部 それは、そうで御座居ます。
大石 でも殺さなくてもいいじゃないか。…これで、我が藩が下手に動いたら、……ドッキリだったらどうする?
堀部 ドッキリでは御座らんじゃろう、何故なら、それがし、殿の切腹なさる御姿をありありと見ました故。
大石 いや、それも含めてドッキリではないか?
堀部 それはどういうことで御座るか?、つまり、1「あの時に切腹された殿は贋物であった。」、2「殿は、切腹しても生きている」…、どちらでござる。
大石 3「実は殿は茶目っ気たっぷり」
堀部 うおお。感服つかまつる…、訳がないだろう大石殿!、そのような事はあり得ぬ。それがしは、もう一度、申し上げさせて戴くが、仇討ちでござる!…仇討ちしか、あり得ませぬぞ!、憎っくき吉良を殺すので御座る。
大石 落ち着いて下され。
堀部 大石殿は何故そのように、落ち着いて、居ることが、出来るのか!
大石 いや、一度、別の手を考えてみても良いではないですか。
堀部 別の手と申しますと?
大石 それは最後の手段で、討ち入りというのは、手間もかかる。金もかかる。貴方と同じ様に私が腹を立てていないとでもお思いか!
堀部 だいぶ。
大石 ぐらっ…(よろめく
堀部 大石殿、大石殿がそのような、簡単に決断を揺すぶられるようでは、なりませぬそ。
大石 そうですな。しかし、私に今日陳情に来られたのは、貴方ひとり。
堀部 なんとも、左様でござるか。
大石 我が阿穂藩の、総意というふうに考える訳にはいきません。

堀部 それがし、…足が痺れもうした。…それはそうで御座りまするがしかし、一体他の者たちは、何を考えておるのか。それがしはもう、悔しさのあまり!…、(子供声で)幼児退行シソウデゴザルョ〜。仇討チシタイデチュ〜!、仇討チスルデチュ〜!
大石 猫ちゃんだよー。(ネコのヌイグルミを渡す
堀部 ネコチャンデチュ〜。
大石 堀部殿。
堀部 は。
大石 駄目でちゅ!
堀部 …我慢し申す。
大石 家に帰ってからにしてください。
堀部 それは、退行は、家に帰ってから…、分かり申した。
大石 私とて、
堀部 は。
大石 何も手をこまねいている訳ではない。
堀部 と申されますと。
大石 一応打つ手は打っております。
堀部 左様に御座いますか。
大石 はい。
堀部 すると、大石殿がそのように、昼間から惚けたような姿をしておるのは、これは、故を欺くにはまず味方からと、そのような、お考えで御座るな。
大石 失敬な。
堀部 それがし、感服つかまつった。
大石 感服して戴けるのは非常に有難いのだが、堀部殿、
堀部 は。
大石 是が私のノーマルじゃ。
堀部 …素でござったか。
大石 しかし今日はやけに、城内が静かなようじゃな。
堀部 左様に御座りまするな。それは…、殿にあのような,事があったばかりで御座る故、みなの者、自重しているのではないかと。あ、じちょうというのは自らを嘲る方では御座らぬ。
大石 課長の上でも御座いますまい。
堀部 ああ。
大石 嘆頼書を…
主税 父上ー、父上ー。
堀部 ん、これはご子息の主税(ちから)殿ではござらぬか。
大石 入れでもよろしいか?
堀部 どうぞ。
大石 入りなさい。

主税、入って〈る。

大石 何をモジモジしているのじゃ。
堀部 シャイなお年頃で御座るな。
主税 父上、僕のおやつが、いつの間にか無くなっていたんてす。
大石 知らんよ。
主税 せっかく…、取っておいたのに。何処いったんだろう。
大石 主税よ、起きながら寝言を言うのは止めなさい。
主税 僕は、起きて居ります。失礼な。父上の方こそ、寝て居られるのではありませぬか。
大石 寝ているように見えるか。
主税 若干。
堀部 ご覧なさい、大石殿。
大石 わしは幸せじゃなあ。
主税 私もそう思いまするが、…そんな問題ではござりませぬ!、私が、せっかく、殿から貰って、大事にしていたあのビスケットを。
 ニャー。
大石 違う、と言うておるぞ。
主税 父上は独語がお分かりになるのか。
堀部 よろしいか、主税殿、我々は、猫が考えている事が分からないようでは、正直言って、生きていけませぬぞ!
主税 そうでござるか。
大石 いや、生きてはいける。
主税 どっちで御座りまするか?
大石 父を信じるか、こちらじゃ。
堀部 ファイナルアンサー?
主税 …堀部殿を信しるで御座る。
堀部 大石殿!
大石 お前…、出てけ。
主税 これは、あまりな御言葉!、何故私が出てかなければならないというのでしょうか。
大石 そこは父を立てるものじゃ。
主税 (大石を抱え起こそうと。
大石 いや、そういう事ではない。…して、何の用じゃ。
主税 ですから、おやつが見つからずに、…ですから、殿が折角くれたおやつをですね、今日食べようと思っていたんですよ!、それが……
堀部 おおっ、ねこねこさんだ。

猫が舞台上に。

主税 まさかこ奴が犯人では御座りませぬか。
大石 あのなあ、一応言うておくが、あいつが我が藩では実は一番偉いかもしれん。
主税 そうで御座いますか。
大石 心してかかるように。
主税 ならば仕方ありません。もう諦めます。
大石 うん。
主税 しかし、今日は、殿を実は一度も見てないのですが、父上は殿が何処へ行ったか御存知ありませんか?
大石 お前は知らぬのか。
主税 は。
大石 お前の方こそ、寝て居るのではないか?
主税 いや、それは先刻言いました。起きて居りまするよ。
大石 ……。
主税 どうかしましたか?
大石 お前は幾つに成った。
主税 そろそろ元服に近う御座居ます。
大石 もう大人じゃな。
主税 そうで御座居まするな。色々な所が成長して御座りまするよ。
大石 …大人として扱って良いのじゃな。
主税 それは…お心に、準じます。
堀部 …やはり、聞いてよろしいか。
主税 はあ。
堀部 その、どの辺りが成長していると言っておられるのか。いやいや、その、言い難かったら後でそうっと教えてくれればよい。(少々興奮している
主税 それは、少々…。まあ色々な所が。

大石 まあ、くるぶしだと思って下さい。
堀部 育ち申すか。
大石 元服ですからな。あの年頃の骨は伸びるのが早い早い。
堀部 ああ、それは確かで御座る。
大石 じゃ。
主税 まあ、後で、風呂場で。
大石 教えるんかい。どういう仲でござるのじゃ?!
主税 別に、いたって健康的な、仲でござりまするが。
堀部 左様。
大石 口裏は、合わせておりませぬな。
堀部 大石殿、疑心暗鬼でござるかあ?
大石 いやいや。
主税 父上!、嫉妬は醜う御座居ます。
大石 俺は馬鹿か?
主税 そのような事は申して居りません。
大石 子供の行く末を案じるあは親の役目じゃ。…まあいい。大人として扱うぞ。
主税 は。それは、願ったりでございますが。
大石 残念な事じゃが、
主税 は。
大石 心して聞け。
主税 世の中には残念な事がござりまする。

大石 殿は先日、
主税 先日。
大石 星になった。
主税 星で御座居まするか。それは、どのような星で御座居まするか。
大石 どのような?
堀部 どのような、とは。
大石 …一番星じゃ。だからもうお前とは会うことが出来ん。
主税 何故でござりまするか?
堀部 一方的に見守られるだけじゃ。
主税 こちらからも見ることは出来申す。
大石 ああ、見ることは出来るなあ。
堀部 確かに。
大石 しかしもう、お菓子を貰う事は出来んなあ。
主税 宇宙船に乗りまする。
大石 …寝ておるのか!
主税 寝ておりませぬよ。
大石 ああ、…とにかく、殿にはもう会えんのじゃ。それが大人という奴じゃ。分かるな。
主税 難しゆうござる。
大石 そうやって階段を一歩一歩登って行こう。
主税 それは、どういうことで御座ろうか。
大石 殿には会えん。
主税 会えん、で御座るか?、いやしかし、毎日出てくるので御座ろう?
堀部 うーむ。
大石 喋れない。話が出来ない。わがままを言えない。愚痴を聞いてはもらえない。何の歌詞だおい!
主税 では私はもう殿に、フィリングの作り方を教えてもらったり出来ないので御座いますか?
堀部 フィリングで御座るか。貴殿は殿に一体な、何を教わっていたので御座る?
主税 勿論お菓子作りで御座る。
堀部 ああ、殿はピクニックとか、お菓子作りが大好きで御座った故。
主税 しかし、わたくしはまだ習う物がいっぱい御座居まする。
大石 他の人に習いなさい。剣術とか、算盤とか。
主税 嫌で御座います!
大石 嫌で御座いますって言われても、…
堀部 侍にとって大事なのはもうちょっとこう、
主税 お葉子作りで御座る!
大石 お前は何に成りたいのじゃ。
主税 …殿の様に成りとう御座りまする。

堀部 ああ…。
大石 殿は立派な武士じゃ。
主税 ええ、ですから私も、立派な武士として、エクレアとか、ストロベリーショートケーキとか、作ります。
大石 何、お前の中での殿は、パパイヤ鈴木みたいなイメージか。
主税 いやそれは私は知らないのですが。
大石 そうか…。
堀部 まあ、有り体に申そう。…殿は死に申した。亡くなられたので御座る。
主税 (あっけらかんと)それならそうと言って下されば。何を勿体ぶっているので御座いますか。
大石 そうか、分かってくれたか。
主税 ええ、分かり申した。…残念でござりますなあ。
堀部 そ、それだけか!、…仇を討とうとか、そういうこう、燃えて来るものは無いのか!
主税 燃え申すか?
堀部 いや、燃え申さぬか?、こう、このような、屈辱にッ、どこまで、耐えられると申すか!
大石 難しい話は分かり申さん。
堀部 左様で御座るか。
主税 屈辱で御座るか?
堀部 屈辱、で御座ろうが!
主税 何か屈辱な事されたで御座るか?
堀部 な、何故、我等が殿は切腹を申しつけられて、吉良はあの様にのうのうと生ぎているので御座るか。
大石 いや、まだドッキリかも知れませぬぞ。
堀部 大石殿はまだその可能性を捨てておられぬと。

大石 話を戻しまするぞ。
堀部 は。
主税 吉良とは何で御座居ます?
堀部 吉良をッ、知らぬのか!
主税 はあ。
堀部 大石どの。
大石 プロレスとか強いのじゃ。
主税 レスラーで御座居ますか。
大石 んー、どう言うたらいいんじゃろ。…強いと思っておけばよい。
主税 はあ、しかしそれは余りに漠然として居りまする。
大石 漠然…、じゃ、どういうのを求めて居るのじゃ。
主税 求めているも何も私が聞いているので御座居ますよ。
大石 んー、難しい。ああ、「悪い奴」でいいか。
堀部 左様。
主税 悪党に御座居ますか。
大石 我々にとって悪い奴。憎い奴。
堀部 左様。
主税 はあ。
堀部 仇に御座る。
大石 うん。
主税 分かったような、分からぬような。
大石 まあそれは、遣い追い、話をしていこう。
主税 まあ良う御座る。それでどうするで御座るよ。
大石 まあどうするというか――
堀部 それ故、それがしは仇を討つしか無いと申しておるのじゃ。
主税 うつで御座るか!
堀部 左様。
主税 うつと申すと、左様、それがし…うどんなら打てるで御座る!
大石 (諦めたように)じゃあ、うどんを打ちなさい。

主税、頷いて下がる。

堀部 大石殿。
大石 いや、あの年頃は難しい。何かやらしておけば静かに成りましょう。
堀部 まあ、それはそうだが…。
大石 して、私は一応幕府に、
堀部 は。
大石 この度の一件。
堀部 は。
大石 異議申立ての嘆願書を送って居ります。
堀部 嘆願書に御座るか!、異議申立てに御座るか!
大石 はい。
堀部 成程。これは、本来本筋に御座る。
大石 うん。一応、その結果を待ってからでも…

いつの間にか主税がうどんを打つ準備を着々と進めている。

堀部 まことに打つのか!
主税 打ち申す。
大石 それは何じゃ。
主税 うどん作りのキットに御座りまする。
堀部 キットに御座るか。
大石 お前は何処へ行くのじゃ。
主税 家に、居るで御座るよ。何処にも行き申さぬ。
大石 …続けなさい。
堀部 すると、この度の裁定について、これは幕府が考えを改める可能性があると。
大石 いや、一応聞いてみるのじゃ。
堀部 おお〜いし〜どの〜。
大石 「それは無いんじゃない?」って書いといた。
堀部 それはその、側用人の柳沢吉保とか、将軍…綱吉公とかが、広げると「それは無いんじゃない」って書いてあるでござるか。
大石 クエスチョンがある。
堀部 「それは無いんじゃない?」(語尾を上げる。
大石 ビックリマークも付けておく。
堀部 あれはどう発音するので御座ろうな。ビックリはてな?、はてなビックリ?、「無いんじゃないの?!」(語尾を更に上げる。
大石 まあ、そんな感じだなあ。
堀部 …まあしかし、嘆頼書は嘆頼書で御座ろう。公式文書は公式文書に御座る。
大石 その結果が出るまで、…一応は我慢はして戴けませぬか。
堀部 分かり申した。
大石 しかし――

家老 大石殿ー、大石殿ー。
堀部 御家老で御座るな。
家老 大石殿ー。
大石 お入り下さい。
堀部 御家老お入り下さい。
家老 …そっちかあー!
堀部 御家老?
大石 嫌な予感。
堀部 ごか、御家老――

家老、人ってくる。鎧を身につけ、刀と銃を持っている。

家老 アイ、アム、ア、キラー!!…アーイム、ア、キラー!、討ち入りじゃああっ
堀部 御家老、
大石 また飲んで
家老 う、ち、い、り、じゃああ!!
大石 また飲んで――
家老 う、ち、入りじゃああっ!!
堀部 御家老!
家老 なんじゃあっ。
堀部 とりあえずその、抜き身はしまって下さい。
家老 抜き身!?
堀部 左様。
家老 これを持っておらんと恰好がつかんではないか!
大石 いやあもう充分恰好がつかんで御座る。
家老 なあにいっ?、たしっかにっ、この衣服は、私が20年前に戦に参加した時の服装じゃ!
大石 それは有り難う御座居ます。
家老 …だからいかんと申すのっかあっっ。
堀部 御家老、落ち着き下さい。
家老 んんっ?
大石 何処で一杯引っ掛けなすった。
家老 一杯?…、引っ掛けとらん!
堀部 まあ、まあまあ、物騒なものはこっちへお渡し下さい。
家老 何が、物騒じゃっ。ああ、んああっ!(暴れる。
堀部 御家老、御家老。
大石 ここでございます。
家老 わしが欲しいのはっ、これじゃっ!(銃を撃つ?、ばん、という昔
堀部 御家老。
家老 討ち入りじゃああ!
大石 うちは植木か。(?)
家老 うち、いり、じゃと、言って居るのだ!、この、…大っきな石!
大石 訳分からん。

堀部 御家老。
家老 何じゃ!
堀部 落ち着き下さい。
家老 落ち着くも何も、…
大石 また押入れに入れまするぞ。
家老 押入れ?、そんな物破れば良かろう!
大石 懲りてないんで御座居ますな。
堀部 御家老。
家老 討ち入らんと申すのか。…んんん?!(銃を撃つ)こっちはなあ、…壊れとるんじゃあ!
大石 もう、そういうイメージ作りは沢山で御座る。
家老 何かいめーじベーじゃ、…まだ、まだ、いかんと言うのか?
堀部 ああ、火薬臭い。
大石 何処へ、で御座りましょうか?
堀部 御家老。
家老 んー?!
大石 撃てないのか。
家老 撃てるわ、このうっ。(ピコピコハンマーで殴る。)この、スカタン!、スカタン!(殴る。)あああああっ!
大石 スケールダウンしとるやないか。
堀部 御家老。
家老 なんじゃあっ!
堀部 落ち着いて下され。
家老 わしは充ー分に落ち着いておるっ。
堀部 落ち着いて下され。
家老 落ち着いておる。
大石 はい、どうどうどうどうどうどうどうどうどう。
堀部 よろしいか、御家老。
家老 何じゃっ。
堀部 その様に先走っているだけでは仇討ちは成りませぬ。
家老 成らんのかあっ。
堀部 成りませぬ。
家老 しからば、どうせいと言うんじゃ。
堀部 様子を見るので御座る。
家老 様子?
堀部 左様。今は様子を見る時に御座る。
家老 ようす。
大石 はい。
家老 中国にある奴か?
堀部 ……。
大石 ……。
堀部 どうで御座る、突っ込んで欲しゅう御座るか?、…次行き申すか?
家老 次じゃ。…で?

堀部 今は、幕府に嘆願書を出して御座る。
家老 うん。
堀部 して、今はその、吉良の動きを見張る時で御座る。
家老 見張る時。
堀部 左様。
家老 うんっ。で?
大石 だから、返事が返ってくるまで暫し待ちましょうと。
堀部 左様。
家老 待つ。
堀部 今は、こう、我々が何か怪しいことをしていると、気取られぬのが、重要にござる。
家老 怪しい事をしていると。
堀部 左様。
家老 うーん。
堀部 具体的に言えば、御家老は全ての活動を停止した方がよう御座る。
大石 …逆に急に停止すると怪しまれるな。
堀部 ああ、左様に御座るな。
大石 一日3時間にして戴きたい。
家老 一日3時間の労働でいいんだな。
堀部 左様。
大石 遊びじゃないか。(殴る。
家老 分かった。
堀部 分かり申したか。
大石 では、部屋に返りましょう。
家老 うん…っ。
大石 嘆頼書の結果が出るまで、我が藩は暫し我慢で御座居ます。
堀部 左様。
大石 よろしいか。
家老 うーんっ…。

大石 (主税に)お前は何処に行くのじゃ。
主税 何で御座るか?、まとまったで御座るよ。(粉が捏ねられ、まとまって生地になっている。
家老 こ奴は何をしているんだ。
堀部 うどんで御座る。
家老 うどん?
堀部 左様。
大石 続きは部屋でやりなさい。
主税 そうですか。
大石 うん。
主税 …食べますか?
大石 食べられるか、それ。
主税 まだ、無理でござる。
大石 じゃ、聞くなおい。
家老 いつ食べれるんだ。
主税 約1時間後位でございます。
家老 一時間…。
大石 ま、今日はこれまでという事でよろしいかな。
堀部 よろしいな御家老。
主税 よ、おっと…。
堀部 これは片付けるので御座るか?
大石 いや、息子の不手際は親が遣り申す。
堀部 ああ、そうで御座るか。

一同、片付けなどをしつつ、はける。暗転。転換音。

語り さてその頃、吉良邸では。

電飾を体に巻き付けて、吉良登場。ややして、明転。

吉良 メリークリスマス。吉良藩の皆さん。吉良藩と言う藩は存在しないんですが、私は、結構調べたんだけど、吉良が何処の藩の人か分からなかった。

♪ダバダー、バー、ダバダバター、バー…(おやつの「カール」の袋を取り出し、それを手で揉みほぐして漬す)…違いが分かる男の、潰しカール。…後で食べよう。

で、この名門吉良藩の当主、吉良上野介をここまで呼び立てた…君、何の用だね?、…うしろしたばねの、した、(笑いながら言ってるので良く分からない何かアクシデントか?)…私がこの、名門吉良家、私に楯突いたら只じゃ分かっておかないと…(客が受けてるのであえて言い直さない)言うのかね?、ほう。此度の一件について、お話を伺いたいと。職務に忠実なのはいいが、妻も子もある身なら、一寸は知恵を働かせるもんだよ。…よろしい。世間では、吉良上野介の人気は非常に悪いようだが、私がどんなに、公明正大で、今回の件についても、どんなに私が正しいか説明して上げよう。

まずは第1点、私が言いたい第1点は「松の廊下はピクニックをする所ではありません。」…間違っていますか?第2点、「そこに卵が有るからといって食べてはいけません。…分かりますか?、私はなにか間違ったことを言っていますか?大体あの―

 にゃお。

吉良 …大体あの、野ネズミども、あんな、阿穂藩の連中などはこの世から消去ってしまった方が、世のためなのだ。

 なーお。

吉良 大体、私はまず言いたい。阿穂藩のあの、一番の家老である大石グラの助!、…奴は北朝鮮の首席に似てると私は思う。その事の是非をナニするのは、ちょとやばいから止めておこう。

第2点、あの藩にはろくな家臣がいない。人は宝なり。人が藩を決定するのだ…ここだけの話、皆さんに教えて上げよう。この芝居の稽古が始まってから、1か月というもの、奴等は今年が赤穂浪士討ち人り300周年という事を、誰一人気付かなかった。…気付いたのは私でもないんですが。まあ、それはいいでしょう。

ここまでで、奴等が減ぶ理由というのは充分分かってもらえたと思うが、このキラー、この吉良。私はまず知事になって第1に何をしたか?、…1階に知事室を移しました。そしてダムを廃止しました。このような、開かれた県政、藩政、この、このような私が何故、人気が無いのか?、全く、私はあきれ果てて物も言えない。そしてこの、県民に対するサービス。…いいですか

 わーう。

吉良 卵というのはですねえ、卵というのは、命なんですよ。そして、鳥というのは空を飛ぶ。大空というのは人間の、憧れです。私は、それを汚すような奴等が許せない。そこで私はちょっと権力とコネに物をいわせて、将軍様に『鳥類憐みの令』というのを出してもらいました。…鳥を食べたら死刑。卵を食べても死刑。これで、私の推進するアホウドリの天然記念物の救済事業も随分はかどることでしょう。…さあ、あなたもこれで、私が、ただ単に金に物をいわせている嫌な奴ではない事が分かったでしょう。大体、江戸時代だからといって、和服を着ることはないんですよ。私の藩にはちゃんとに、

 んあうう。

吉良 こんな、密貿易を進めている、ちゃんとした、先見の明があるんです。分かりましたか。楯突かない方が身の為ですよ。…どうなるか、事の成り行きを見守ってみようではありませんか。

吉良、去る。

語り 転じまして、大石邸では。

主税 (登場してきて)ええ、うどん作りの続きでございます。知らない人の為に一応いいますと、うどん作りというのはですね、これを一回踏んで、こう揉む訳ですね。そうするとこのう、グルテンというものが引き出されてきて、ええ非常に美味しくなると、いうことらしいです。ええ…、とりあえず、それを遣りますんで。ええ、若干準備に時間がかかります。その間は父上につないで貰います。(準備にかかる。

大石 (登場してきて)どうも、グラの助です。私の育て方の何が悪かったのでしょう…。小さい頃はいい子でした。「父上ー!、父上ー!」、3メートル走ったら転びました。それがまあ、こんなにも大きくなって…。図体ばかりが大きくなって。
主税 (準備をしながら)何か言い申したか?
大石 何も言い申さんよ。…わしは、単身赴任のサラリーマンみたいな感じです、家庭の中で。
主税 (準備をしている
大石 まだかかるのか?
主税 後は…、もうよろしゅう御座居ます。一応、拭いておかないといけないんですが、ソデが混んで申した。
大石 主税よ。
主税 何で御座居ますか?
大石 一つ聞きたい。
主税 エクレアの作り方で御座るか?
大石 …俺は誰だ。

大石 主税よ。
主税 何で御座りまするか。
大石 一つ聞きたい。
主税 一つで御座るか?、本当に?
大石 大体一つ。
主税 曖昧で御座るなあ。
大石 じゃ、ずばっといくぞ。
主税 これが「足踏み」で御座るよ。(生地を踏んで捏ねている。
大石 聞いてねえ。
主税 何で御座る。
大石 雰囲気とか、色々あるだろう。
主税 ちからで御座るか?

大石 いやいや。…主税よ。
主税 この感触が気持ちいいで御座る。(生地を踏んで捏ねている。
大石 …。
主税 …何で御座るか?
大石 言うぞ。
主税 どうぞ。
大石 主税よ。お前、わしの何が不服じゃ。
主税 別に不服は無いで御座るよ。父上は立派な方で御座るよ。僕は信じてるで御座る。
大石 どういう風にじゃ。
主税 どういう風にって…、それを口で言うのは難しゅう御座るなあ。
大石 口に出来ん程、信じておるという訳か。
主税 そうで御座るな、んー、父上は、それがしが、例えば崖から落ちそうになっていたら、助けてくれるで御座るよ。
大石 そら、当たり前だろう。
主税 拙者は父上を助けないで御座るよ。
大石 えー、…一応聞くぞ。何、重いから?
主税 良く分かったで御座るなあ。
大石 いや、その前に色々あるだろ!、問題が。…助けたい、とは思うだろ。
主税 …。
大石 何で悩むんだ!
主税 そうで御座るかなあ、まあ、そういう事にしておくで御座るよ。
大石 むう、お前は「そういう事にしておく」が多いのう。
主税 性格で御座るな。

大石 …主税よ。
主税 何で御座るか。一つでは御座らなかったのか?
大石 聞くことではない。これは、説教じゃ。
主税 は。何で御座います。
大石 お前はそのうち、わしの後を継ぐ身じゃ。
主税 何時の間にそういう事になったので御座居ますか?!
大石 生まれた時からじゃ。
主税 しかし、他にも兄弟は一杯おりまする。
大石 息子はお前一人じゃ。
主税 そんな事は御座居ませぬ。これが私の弟に御座りまするよ。(ぬいぐるみを出す。
大石 …寝ないでうどんを踏むのは止めなさい!(殴る
主税 失敬な。これは…、父上は是を御存知無いのか。
大石 そら何じゃ。
主税 弟の大三郎で御座居ますよ。
大石 いや、弟と思うのはお前の勝手じゃが、わしは、知らん。
主税 それは、可哀そうで御座りますよ。
大石 俺が?
主税 大三郎です。
大石 俺も、じゃないか。
主税 失敬な。
大石 何で失敬だ。
主税 実の父親に無視されるなんて、可哀そうで御座るよ。…良く似てるで御座る!
大石 お前と?
主税 父上とで御座るよ。
大石 どこら辺がじゃ。
主税 この辺がで御座るよ。
大石 漠然としておるな。まあ、それは母上には内緒にしておくから。
主税 どの母上で御座る?
大石 一人しか居らんではないか。
主税 公称はそうで御座るな。
大石 お前はわしを何者に仕立てたいのじゃ。
主税 父上は只の浮気者で御座るよ。
大石 浮気者か…。

主税 そろそろ、折り畳んでもう一回踏むで御座る。
大石 いや、うどん…、確かに、うどんとわしは言うたけれども、
主税 は。
大石 武術とか、…あるだろ。
主税 何がで御座るか?
大石 じゃ、もし悪い奴にお前からまれたらどうする?
主税 泣くで御座る。
大石 戦え!
主税 父上は戦うで御座るか?
大石 わしは戦うよ。
主税 どんな相手でもで御座るか?
大石 …勿論。
主税 偉いで御座るなあ。
大石 馬鹿にしておるのか。
主税 そんな事は御座らぬが。
大石 …お前もいつかは祝言を挙げる。
主税 そういう日が来るかもしれませぬなあ。
大石 お前の嫁がからまれているとする。そこにお前が通りかかった。
主税 はあ。
大石 さあ、どうする。
主税 それは時と場合によるで御座るよ。
大石 助けんのか。
主税 だから、時と場合によるで御座るよ。
大石 何で助けんのじゃ。
主税 いやあ、何でと申されましても、
大石 助けたいとは、思う?
主税 助けることは、あると思い申すがね。中々世の中難しゆう御座るよ。

大石 いや、「曇り後晴れ」みたいな、そういうのはいらない。「今日が曇りだったから明日晴れかもね。」とか、とういうのはいらない。気持ちとして、助けたい、飛び込んで助けたいとは思わんか!
主税 それはまあ、思うかもしれませぬな。
大石 その為に腕を磨いておこうとは思わんのか。
主税 やることは一杯あるとは…、思うので御座居ますが、つまりでございますな、…その場で助けるというパターンも有り申すが、こう、助っ人を呼んで来るというパターンも有り申す。
大石 そんな時間が無かったらどうするのじゃ。頼れるのはお前の腕ひとつじゃ。さあ、どうする。
主税 父上は極端なケースを申すなあ、そういう…相手によるで御座るな、やっぱり
大石 その時の為に、武術をやっておいた方がよいじゃろ。
主税 それはそうで御座るが、そんな事を言い出したら色々あって、手が回らないで御座るよ。
大石 じゃ、お菓子作りはなんの役に立つのじゃ!
主税 お菓子作りは美味しいで御座るよ。
大石 お前だけだろう!
主税 父上にもあげるで御座るよ。
大石 いやいや、俺はみなしごか?
主税 そんな事は御座らん。
大石 どう言えば…、少なくともうどんを踏むのを止めて寝なさい、少し。
主税 いや、これは途中で止めたら駄目で御座るよ。
大石 かといって3日3晩踏むものでもなかろう。
主税 3日3晩も踏んでるで御座るか?
大石 お前馬鹿か!
主税 気がつかなかったで御座るよ。
大石 しかし

ノックの音。

大石 はい。
堀部 堀部に御座る。
大石 お入り下さい。
堀部 (入ってくる)大石殿、大石殿嘆願書の返事はまだで御座るか?
大石 それについては後程お話中そう。
主税 それがし邪魔で御座るか、退くで御座るよ。
堀部 いやいや、よう御座る。大石殿、大石殿、これはあれで御座ろう、こう、うどんに夢中になっていると見せ掛けて、吉良を欺こうという、そういうお考えで御座ろう?
大石 いや、物は言いようじゃな。
堀部 流石、大石殿で御座るな。
大石 褒められたのか、わし。
堀部 そうではのう御座るか?
大石 いや、褒められる。
堀部 これでその、あれで御座ろう、こう、うどんの屋台とか引いて情報を取捨するで御座る。
大石 んー…、はい。
主税 あ、父上もやるで御座るか?
大石 いや、時々な。
主税 時々で御座るか、…でも父上は水虫があるから駄目で御座るよ。
大石 いつからじゃ。
主税 いつからって、前からあるじゃ御座居ませんか。
大石 てか、何でお前はそれを知って居るのじゃ。
主税 親子で御座りまするよ。
大石 お前、そこだけフレンドリーだな、おい。
堀部 大石殿。
大石 難しい年頃じゃ…。ん?
堀部 それがし、何故、大石殿だけ、靴を履いておられるのか、先程から不思議で御座ったが、成程感服仕った。(大石以外は足袋靴下を履いているのだが、大石は靴なのである
主税 靴を履くと蒸れるで御座るからなあ。
大石 いやあ…。
堀部 しかし、履いて戴かなければ、伝染り申す。
大石 いや、わしは水虫と決まった―

家老が現れる。

家老 大石殿…。

家老がネコを捕まえようとしている。

大石 いたずら同窓会か何かですかな。
家老 困り申した。
大石 いや、私の方が困っております。
家老 連れてきたのはよかったのですが、…お戻りになられました。
大石 丁重に扱って下され。
家老 で、私の貴重な3時間を…、さあ…!(ラグビーボールを差し出す
大石 いや、さあと言われても。
家老 さあ…!
大石 持てばよろしいのか。
家老 いいえっ。
大石 どうすればよろしいのか。
家老 ヴああっ!(大石の股間にトライ
大石 一体なにがおわったのじや。
家老 …今のは何点ですか?
大石 座蒲団2枚というところかな。
家老 薄いっ。…防御陣か薄すぎます。
大石 何の暗号ですか。
家老 暗号など申して居りません。
堀部 ラグビーで御座るなあ、それは。

家老 で?、
大石 で?
堀部 御家老…。
大石 ああ、喫頼書の結果で御座居ますか。
家老 そおーです。
大石 一応、来て居りまする。
堀部 来て居りますか!
大石 はい。…「それは無いんじゃない?」と書きましたね。
堀部 はあ。
大石 返事は、
堀部 返事は、
大石 本気と書いて「マジ」
堀部 ううっ…。
大石 どうなされました。
堀部 …(妙に明るく)これが人生かあ、もう一回!(戻って)…軽薄なニーチェになってしまい申した。
大石 大変で御座居ますなあ、色々。
堀部 それは即ち、これはもう仇討ちしか舞う御座ろうが!
大石 仇討ちですか。
堀部 左様。
大石 それには準備が必要ですな。
主税 打つのはもう打ってるで御座るよ。
堀部 それはうどんで御座ろう。
主税 違うで御座るか。
大石 お前は一度頭を打ちなさい。
主税 頭は…、食べられないで御座るよ。
大石 本気で答えなくていい!
主税 本気で御座るよ拙者いつでも。…どうするで御座るか?

堀部 いや、それは、仇を討ちに行き申すよ。
主税 仇とは何で御座居ます?
堀部 仇というのは、だから、…かたきに御座る。
主税 かたきに御座りますか。
堀部 左様。
大石 亡き殿の遺志を経ぐのじゃ。
堀部 左様。
主税 遺志は緩いで御座る。
堀部 いや、…まあ、それはそうで御座るが、うーん、成程、これは難しーい御子息で御座るなあ。
大石 即ち、
主税 即ち、
大石 吉良上野分を、これは討たねばなるまいな。
堀部 左様。
大石 準備は、内々ののみに進めて下され。
堀部 左様に御座る。
大石 あくまでも目立たぬように。
堀部 気取られぬように、密やかに。
家老 分かりました…!
堀部 いや、ごか、御家老。
家老 …吉良邸に参ります!

大石 それはバレるではないか。御家老はじゃあ、3時間を2時間にして下され。
堀部 御家老、御家老には大事な任務を授け申す。御家老の任務は、太陽の動きを記録する事で御座る。
家老 太陽の動きを。
堀部 左様。1時間に1回、太陽の角度を計って、記録して下され。そしてその、30日間記録して戴いて、法則性が見出せたら報告して下され。分かり申したか。
家老 それは、即ち1日…、4分の労働で24時間だから…、1回につき、10秒で済ませという事ですな!
堀部 結構頭いいではないか。…左様。
家老 分かりました。…で?
大石 じゃあ、任務らしい任務を一つ。…吉良の顔が分かる男を探して下され。
堀部 おお!、左様で御座るな。
家老 吉良の顔が分かる男。
大石 はい。
家老 それは、違いの分かる男とは違うのですな。
大石 まあ、坂東八十助を連れて来ても、出来るなら構いません。出来るのならね。
家老 うーぬ。
大石 堀部どの。
堀部 は。
大石 我が藩の者は、体力が無い。
堀部 左様に御座るな。
大石 訓練を一つ宜しくお願いします。
堀部 分かり申した。
大石 あくまでも内々のうちに。
堀部 左様で御座るな。
大石 気取られぬ様に。
堀部 何しろこう、吉良のスパイなどが紛れ込んでいたら、これは大変な事で御座るゆえ。
大石 決行はそうじゃなあ…、雪のしんしんと降る晩にでもしようか。

堀部 左様で御座る。
大石 それでは、気取られぬように…。
堀部 分かり申した。
家老 気取られぬように…。
主税 何をするで御座るか?
堀部 いや、だから討ち入りに行くと先刻から言っておろうが!
主税 そうで御座るか。
堀部 左様。
主税 それがしよく分からぬで御座るが。
堀部 いやその、吉良の家に行って吉良を殺し申す。
主税 あ、分かり申した。やり申そう!
大石 お前はとにかく寝なさい。
主税 はあ。
大石 ねて、冷えピタを貼って、その後で一寸話をしよう。
主税 良う御座るよ。(うどんキットを片付け始める。
堀部 それは、もう、もうよいのか。
主税 終わったで御座るよ。
堀部 分かり申した。
大石 じゃあ、それぞれにお願いします。
堀部 それがしは、訓練で御座るな。

各々、退場する。家老は残る?

語り しばし後、吉良邸では。

吉良、登場。

吉良 スパイ353号。まさかと思うが気付かれてはおるまいな。
家老 勿論。
吉良 で、その後何か大石側に動きはあったのか?、私には他のスパイから色々情報が入って来ておる。不審な動きが見えるようだ。まあ、まさかあんな芋侍共に何が出来るとは思わぬが、…ちょっとびびっておる。
家老 決行は、雪のしんしんと降る夜に、と。
吉良 雪のしんしんと降る夜。そうか…。
家老 早速雪でも降らせますか?
吉良 (家老を殴る。)お前は、子供の時から、私の唯一心を開ける相手であったが…、何というのか、人の話を本気で聞いてるのか凄く本気じゃないのか全然分からないな。そこがいい所だ。
家老 申し遅れましたが。
吉良 何じゃ。
家老 この玉、少々危険で御座居ます。(ラグビーボールを示す。
吉良 何故。
家老 蹴ると、
吉良 蹴ると。
家老 足に、大石グラの助が飼っている水虫が伝染る恐れがあります。
吉良 な、なにい!…、大丈夫じゃ。五本指靴下を履いておる。
家老 私も予防の為にその様にしております。
吉良 はっはっはっ。流石抜かりは無いなあ。
家老 何しろ、決死の思いで、大石の…、あああっ!―胡座(あぐら)の中に、トライを決めて参りました。
吉良 わしはそんな事命令した覚えはない。水虫を採って来いとは一言も言ってない!
家老 生物兵器で御座居ます!
吉良 まあ…、考え様によっては恐ろしい生物兵器だな。これをこう…。(?)
家老 そうです!
吉良 革の装丁の辞書がある。それに塩を擦り込んで、そこに水虫を伝染す。3日間経ってさらに生き残っている水虫、これが強化水虫だ。
家老 では…。
吉良 別に反応しなくていい。…もうよい!、下がれ。私は、これから県民の皆さんに政見放送しなくてはならないんだ。
家老 では、最後に一つ…。
吉良 何だ。
家老 奴等、うどんを作って居ります。
吉良 それがどうした。
家老 いつ食べれるのでしょうか。

家老、去る。

吉良 県民の皆さん、今日は。もう早口でいきますが、ええ、我が藩では近頃、大石グラの助一派によります、復讐が懸念されます。故に私は、予算を10億円程使って、県内各所に、コーナーポストを設置しました!、何故かと言いますと我が吉良藩は、キラーカーンの祖先であるからです。皆さん分かりますか?、キラーカーンの必殺技…、モンゴリアンチョップ!、県民の皆さんにはこれをマスターしてもらい、来たるべき大石の仇討ちに備えてもらおうと言う訳です。ちなみにモンゴリアンチョップには、コーナーポストは要りませんが、コーナーポストはダイビングニードロップの為です!えー、モンゴリアンチョップはまず、こう構えて、アアアアアアアッ!!(脚立にモンゴリアンチョップをする。)これがモンゴリアンチョップです。

…本当に、こんな事で、防げるんだろうか、大石の、何というかアレを…。何せ、我が藩は名門とはいえ、武術には弱いからなあ。あ?、何か、…聞こえ、聞こえた?…「僕等の名前は」…えっ?、「僕等の名前は」聞こえるぞ。…いやあ、そんな事は無いだろう。空耳、空耳。…ん?、…何でもない、な。さあ、これで、いよいよ雪の降る晩に決戦の準備が整うかも。おっ…、また、何か、聞こえたような気がするぞ。そ、そ、その辺に何か居るか?

浅野 (客席から)うらめしい…。恨めしい…。
吉良 誰だ「。
浅野 恨めしい…。NTTドコモが無い。…浅野です。
吉良 あ、浅野?!
浅野 恨めしい…。
吉良 貴様死んだんではなかったのか。
浅野 シャラが恨めしい…。浅野です。…AU持ってる?
吉良 持ってない。
浅野 浅野です。AUにしてよ。
吉良 書いたいことはそれだけか?
浅野 背が青って知ってる?(衣装か?
吉良 見えない。
浅野 あ…、ごめんなさい。(客にぶつかったのか?)それ、こっちにパスして。

吉良からポールを投げてもらう?

浅野 キラーパス。
吉良 浅野の亡霊恐れるに足りず。はっはっはっはっ。

吉良、去る。

浅野 (客席の元の位置に座る。)見ないでよ。(お客さんに)…こっちだっての。

語り そして大石邸では。

主税 (うどんグッズを準備しながら登場。)いよいよ打つで御座るよ。打つで御座るよ。打つで御座るよ。打つで御座るよ。
堀部 訓練いたそう。(と言いながら手伝っている。
主税 打つで御座るよー。…よいしょ。(机を立てる。
堀部 せーの。
主税 せーの。

二人で机を据える。

主税 打つで御座るよ
堀部 では、とっ…何、それで打ち申すか。
主税 (すんごい長い麺棒を持っている。)これで打ち申すよ。
堀部 分かり申した。うーん、それではどうしようも無いな、それがし一人で特訓でもし申すか。
主税 特訓をするで御座るか?
堀部 左様。体を鍛えねばならんであろう。討ち入りに備えねばならんだろうが。
主税 元気で御座るなあ。
堀部 元気、元気…、貴殿はそう言われてみれば、何となく若者らしい元気に欠けるような気がし申すな。
主税 若者で御座るよ。
堀部 左様。わ、若者というのは何というのがこの、燃えているもので御座ろうか。
主税 ファイヤーで御座るか?
堀部 ファイヤーは、いや、バーンで御座ろう。ファイヤーは火で御座ろう。
主税 火は燃えてるで御座るよ。
堀部 すると若者で御座るか?、いや、そうではのう御座ろう、内面的に燃えなければならんで御座ろう。
主税 難しいで御座るなあ。
堀部 こう、なんというかこう、も、燃えるのが分からねば、何と言えば分かり申すのじゃ。えー、こう…、しかし何を言っても貴殿は屁理屈でそれに繋げるのであろうなあ、おそらく。そう思うと何かこう、3手先を勝手に読んだ末、「参りました。」と言いたくなるような、そういうこの名人に成りたいみたいな、気分に成って来申した。…例えばこのラグビーボールを見て、燃え申さぬか!如何で御座る。
主税 何で御座るか?
堀部 ラグビーで御座る。
主税 ラグビー…。
堀部 ラグビーは熱う、のうござるか!
主税 それ熱いで御座るか?
堀部 いや、これは熱うのう御座るよ!、プレイするのが熱いので御座ろう。

主税 プレイって何のフレイで御座るか?
堀部 いや、…ラグビーで御座ろうが!
主税 ラグビーでプレイするで御座るか?
堀部 いや、プレイって…、何の事を思っているので御座るか!
主税 いや、分かり申さぬ。それがし子供で御座るから。
堀部 …貴殿そういう方面にだけはこう、何となく、ナニなので御座るか?
主税 何で御座るか?
堀部 いやあ、何とも申し上げ様がのう御座るなあ。しかしこう、ラグビーと言えばこう、何か色々あり申そう!、熱いスポーツの代表で御座ろうが!
主税 そうで御座るか。
堀部 そうは思い申さぬか!
主税 思い申さぬ。
堀部 じゃ、どんなのが熱いスポーツで御座る。例えば。
主税 うーん…。
堀部 ちなみにビーチバレーとかいうのは無しで御座るよ。…行き申せ、行き申せ。
主税 ああ、いやもう結構で御座るよ。
堀部 貴殿、本当にくるので御座ろうなあ、左様か…。こう何か子供の頃ドラマとか、見ていなかったで御座るか?
主税 ドラマ…。
堀部 ラグビーの。
主税 ラグビードラマ、あったで御座るかなあ。
堀部 あったで御座ろう!
主税 あ、粉を忘れたで御座る。

堀部 (ラグビーボールをドン!と置き)お前らそれでも男かあっっ!!、悔しく無いのかっっ!!、
主税 …どうか、しましたか。
堀部 いやそこで、「くっやっしっいです!」と言って立ち上がるのが、ラグビードラマで御座ろうが!
主税 そうで御座るかあ。
堀部 いや、そうで御座るかではなくて、…違うので御座るか?、分かり申した!、貴殿はイソップで御座るなあ!、イソップうー!!イソップうー!!、これがお前の命だ!この線を出たときにお前は死ぬ!、…イソップが死んだーっ!!
主税 何で御座るか?、それは。
堀部 イソップうー!、
主税 な、何で御座るか?
堀部 イソップうー!、お前が、肉を喰わえて、歩いていて、橋のうえに来ると!、水面に!、同じ肉を喰わえている奴がいるう!、イソップ、お前はどうする!
主税 …食べるで御座るよ。
堀部 何をだ!
主税 ええ、肉を、で御座る。
堀部 賢いな…!、イソップ、お前が飼っているガチョウが、金の卵を産んだ!、お前はどうする!
主税 ガチョウは飼ってないで御座る。
堀部 (どんっ、と何かを叩き)分かった。お主を熱くさせる為には、もっと何か、熱いものが必要で御座るな。分かり申した。
主税 何で御座るか?

堀部、ソデに行ってラジカセを取って来る。

主税 それは何で御座る?
堀部 こんな所でそんな突っ込みが来るとは、それがし全く考えて居なかったので、答えられ申さぬ。…端的に言えばそれは、CDプレーヤーで御座るな。
主税 して、それは。

堀部、大根と大根おろしを持っている。

堀部 貴殿うどんを作るのであろう。
主税 うどんを作り申す。
堀部 ならばそれがしは大根おろしを添え申そう。
主税 おお、流石塀部殿で御座るなあ。良く分かってるで御座るよ。…してそれは、何に使うで御座るか?
堀部 うどんを食う時に添えれば良かろう。
主税 いや、その、あの今いじっているもの――

堀部、CDでヘヴィなロックをかけ、猛り出す。(マノウォー「ブラッド・オヴ・ザ・キングス」)

堀部 をオオオオオッッッ!!!!!、どうで御座る!、をオオオオオッッッ!!!ホオオオオオオオオオッッッッッ!!(曲に合わせ頭を振りながら大根をおろし始める。
主税 ちょっと待って下され、堀部殿!
堀部 何で御座る!
主脱 皮を割いていないで御座る!,
堀部 男はあ!、小さいことは、気にせんのだあっ!
主税 不味いで御座るよ!

堀部、音楽を小さくして、ちまちま大根の皮を割き始める。

堀部 この作業の、何処に、ヘヴィメタル魂が!!
主税 落ち着いて下され。
堀部 コーラスが終わったではないか!
主税 巻き戻せばいいのでは御座らぬか?
堀部 そんな…、陛下に失礼な事は出来ん!、…(大根をおろしながら)見ろ、物凄く盛り上がらない!(なお、「陛下」とはマノウォーのリーダー、ジョーイ・ディマイオのあだ名である
主税 じゃあ、それがしが、吹いてしんぜるで御座るよ。

主税、ピアニカを持って来る。

主税 へビメタで御座るな。
堀部 メタルに御座る。へビメタは略称であり、蔑称である故、それがしあまり使用
されると許し申さぬぞ!
主税 め、メタルと言えばよいで御座るか?
堀部 メタルじゃ!
主税 では、行くで御座るよ。

主税、ピアニカを吹こうとするが、管が抜けてしまう。

主税 あら、出ないで御座るよ。
堀部 駄目で御座るか。
主税 あ、出るで御座る。(少し吹く
堀部 じゃ、もう一回行くで御座る。

主税、ピアニカを吹こうとするが、また管か抜けてしまう。

主税 出ないで御座るよ。(また直して少し吹く)出るで御座るな。
堀部 もう一回行くで御座る。
主税 良く分からないで御座るよ。
堀部 せーの、

主税、ピアニカでヘヴィメタルらしきものを吹く。堀部は再び大根をおろす。主税、疲れてきてすぐ止める。

主税 はあ。
堀部 それだけか!、も、もう、何かよいわ!
主税 これは、疲れ申すな。
堀部 一言書ってよろしいか。
主税 何で御座る。
堀部 それがしが疲れ申した。…もう、それはどうなのじゃ?(うどんの事だ。
主税 もうそろそろ、切れるで御座るよ。
堀部 たたんで切れるのか。
主税 たたんで切れるで御座るよ。
堀部 分かり申した。
主税 …もうちょっと、待つで御座るかな。ちょっと寝かしておくで御座る。
堀部 寝かし申すか。分かり申した、じゃあ、えー、本日の特訓はこれまでで御座るかな。
主税 これまでで御座るか。何か楽しんだだけで御座るなあ。こんな特訓ならいいで御座るな。
堀部 貴殿…。色々問題が有り申すな。
主税 そうで御座るか?
堀部 いやあ、もういいで御座る。
主税 これは…、しかし、片づけるで御座るかなあ。
堀部 これはもうこちらで宜しいのか?(麺棒を示す。
主税 それはもうよろしゅう御座居ます。もう要りませぬ。

ごそごそと二人で片づける。

二人 せーの。(机を動かす
主税 良く考えたらこのままでもいいで御座るかな。
堀部 左様で御座るか。
主税 隅に寄せておくで御座るよ。
堀部 邪魔ではないか?、宜しいか。
主税 では、しばらく寝かしておくで御座る。
堀部 分かり申した。

二人、何処かへ行ってしまう。ややして、大石がやってくる。

大石 (机を見て)宴か?…、(気を取り直し)俺は俺を信じてゆく。
家老 大石殿。
大石 お入りください。

家老、入って来る。

家老 誠に申し上げ難い話で御座居ますが、
大石 いや、貴方の話はもう驚きません。
家老 …誠に申し上げ難い話で御座居ますが、
大石 何で御座居ましょう。
家老 水虫に効く薬は如何でしょう。
大石 …あのう、事実確認を一つしておきますが、
家老 はい。
大石 水虫では御座居ませぬ。
家老 では、いんきんたむしですか。
大石 ああ、成程ねえ、股下の水虫…、なんでやねん!(突っ込む
家老 …。
大石 分かった、水虫でよろしゅう御座る。
家老 …宜しいですか。
大石 はい。
家老 治療法と致しましては、
大石 はい。
家老 薬を塗るのと乾かすのとどちらがお好みで。
大石 手間のかからぬ方で。
家老 では両方遣りましょうか。
大石 いや、2つ遣ったら手間だろうが。
家老 それでは。
大石 はい。
家老 乾かしましょう。…さあ!、出して。
大石 はい。
家老 …まさか臭くは無いでしょうな。
大石 匂いでみれば宜しいのでは。
家老 …大石殿は、水虫だ。水虫の足は臭い。…大石殿の足は臭い。…結構で御座居ます。
大石 一人連想ゲームか。

家老 …で?
大石 終わりですか?!
家老 臭い足に興味は御座居ません。何ならこの、ジンサンシバンムシエキスでも、お塗りになりますか?
大石 結構です。
家老 有難う。
大石 語を戻して宜しいかな。
家老 道めて下さい。
大石 私は確かに
 にゃーう、うにゃにゃっ。
大石 御立腹じゃ。
家老 さ、早くこの場を立ち去らねば。
大石 私は確かに、吉良の顔を分かっている男を探せと、申しましたな。
家老 私ではなかったのでしょうか。
大石 申しましたな。じゃ、これを送ってきたのは一体どなたじゃ。(紙を出す。
家老 さあ…。
大石 あなただ。
家老 え?
大石 吉良の顔を描いた似顔絵を、私の枕元に置いといたのは、あなたですね。
家老 そういう事もあったかも知れませんが。
大石 あなたにしては非常に良い仕事だ。
家老 わたくしは惚けて居ります故。
大石 しかし…(紙を見る)本当に吉良上野分?

相当に非道い似顔絵。

家老 わたくしの記憶を基に、それに一寸、人々の噂を加味致しました。
大石 まあ…、当たらずとも遠からずだとは思われる、がね。もう一人信頼出来る者に、頼んでおいた。
家老 は。
大石 こちらが貴方の描いた似顔絵じゃ。
家老 はあ。
大石 信頼出来る筋からの似顔絵は、こちらじゃ。(どんなんだっけ
家老 そちらがわたくしの送った物で御座居ます。
大石 手柄を横取りか。

大石 まあ良い。
家老 何処へ、行きますかね。
大石 いい、天気じゃ。雪のしんしんと降る、のう。
家老 は、それでは。
大石 お分かりでしょう。
家老 ようやくですか。わたくし、このままの恰好で、参じて宜しいでしょうか?
大石 時間がかかるならそのままで結構です。
家老 このままの恰好で。
大石 はい。
家老 さあ、行きましょう!さーあ、行きましょう!、さあ、何でも出しますよお!さーあ、行きましょう!
大石 いや別にハンガーストライキには行かない。…ちょっとお待ち下さい。その内に、ちゃんと用意をした人が集まって参りまする。
家老 用意をした人?
大石 はい。
家老 私の事ではないので?
 にゃー。
大石 あなたではないですね。
家老 何か聞こえた。今のも準備の一つですか?
大石 いや、今のは暇つぶしじゃ。
主税 父上、準備が出来ました!
大石 入りなさい。

主税、入ってくる。

主税 先ず、この机を真ん中に持っていって下され。

皆で机を運ぶ。

主税 そこに置きまする。
大石 ん。
主税 今、包丁を持って参りまする。
大石 ん?
家老 道具では、ないのですか。討ち入りの。
大石 ああ、道具じゃな。
堀部 (入ってきて)大石殿、いよいよ用意が整いましたぞ。
大石 いよいよですね。
堀部 左様。
大石 心の準備はよろしいか。
堀部 左様。
主税 包丁に御座りまする。(持ってくる。
大石 ん?
主税 切るで御座るよ!、…皆で切るで御座るよ。姐(まないた)も用意するで御座る。
堀部 大石殿。
大石 はい。
堀部 これは、それがし思いますに、戦いの儀式のようなもので御座ろう。大石殿はこのようにして、我々の心を昂らせようと、してるので御座ろう。
主税 (出してきて)姐で御座るなあ。
大石 …うん。
堀部 流石は大石殿じゃ。
主税 切り申そう。
堀部 いきなり、切ってよろしいか。
主税 よろしゅう御座るよ。
大石 じゃあまあ、せーの。

皆でうどんの生地を切り始める。

堀部 これをこう、吉良めの首だと思って、切って遣るで御座るな。
主税 吉良の首というのは美味しいので御座りまするか?
堀部 お、お主は何というか、あっち方面と食う事だけだなあ。…若々しくてよろしい。
大石 堀部殿。
堀部 はあ。
大石 笹が欲しかったのに竹を手に入れた気分じゃ。
堀部 して大石殿。
大石 はい。
堀部 それがしの、聞いて来ました噂によりますと、吉良邸は只今、イエローキャブの握手会に出掛けて藻抜けのカラだそうです。
主税 父上太く御座居ます、これ。(大石の切っているうどんを指す。)
堀部 いや、大石殿、大石殿、それは、何というか…
大石 イカだと思いなさい!
堀部 こ、これ位で御座ろう。
大石 …組かい男どもじゃ。
主税 いや、それはうどんと申さぬと思いまするが。
大石 (切り直し始める。)…して、いよいよじゃな。
堀部 しかしですな、それがし思いますに、藻抜けのカラとはいえ、全員が握手会に行ってる訳ではのう御座ろう。
大石 うん。
堀部 それに、我々、討ち入りますのは、夜で御座る。
大石 うん。
堀部 これは真っ暗かもしれませぬな。
大石 そうだなあ。
主税 ドキドキしますなあ。
堀部 いやいやいやいやいや。
大石 ドキドキしなさい。
堀部 ようござるか、真っ暗な中で、盲減法槍や刀を振り回していたら、どうなり申す。
大石 ああ、成程。討ち入り前の諸注意という奴ですな。
堀部 左様に御座る。帰ってくるまでが討ち人りです。
大石 バナナは持っていっても良いぞ。
主税 いいで御座るか?
大石 お前は駄目じゃ。
主税 駄目で御座るか。
大石 お前は元服前じゃからな。
主税 バナナは大人の食べ物で御座るな。
大石 …

堀部 今の、突っ込んでよろしいか。…どう大人じゃ?、分かりやすく言ってみませい。さあさあさあさあ、どの辺りが大人じゃ。…どうで御座る。
主税 いやあ、それがし子供だから分からないで御座るよ。
堀部 子供はこれじゃ。
大石 合言葉を決めねばなりませぬな。
堀部 大石殿、流石で御座ります。
大石 お互いが同士討ちにならぬように。
堀部 左様に御座る。分かりやすい物でないと、これは無意味で御座るな。
大石 分かりやすく、短いもの。
主税 合言葉で御座るか。
堀部 合言葉。
主税 例えば?
堀部 例えば、分かりやすく有名なのは、「山」と言えば「川」で御座る。
主税 ああ、「山」と言えば「川」。
堀部 しかしこれは有名過ぎて「山」と言われて、もし吉良側の人間が「川」と答えたら、これは大変で御座る。
主税 それはそうで御座るなあ。
堀部 あまりにこう、ベタなのでもいけないと思い申す。如何で御座ろう。
大石 じゃあ、私が決めてもよろしいか。
堀部 おまかせ申す。
大石 じゃあ、上の句を私が言います。
堀部 はあ。
主税 は。
大石 松井と言えば。
堀部 …旅館?
大石 ヤンキースで御座る!
堀部 難しゅう御座るな。
家老 分かりました。
堀部 御家老、それでは、「松井」
家老 「と言えば」
堀部 御家老…!、御家老また別の意味でベタで御座るな。
家老 分かりました。
堀部 何が分かり申した。
家老 もう一度お聞き下さい。
堀部 御家老、「松井」
家老 「と言えば旅館?、ヤンキース!」
堀部 長い…。
大石 壊れたテープレコーダーか。(殴る。
主税 父上、
大石 ん?
主税 それがし、松井を知り申さぬ。

大石 じゃあ、もっと分かり易いのでいこうか。
堀部 そうで御座るな。
大石 じゃあ、堀部殿が言うて下され。
堀部 なにかこう、上の、上の事だな。
大石 はい。
堀部 んー…、それでは、「アニータ!」
大石 「止めて下さい!」
堀部 これで良う御座るか?、各々方。
大石 じゃ、それで行きましょう。
堀部 「アニータ!」「止めて下さい!」「アニータ!」「止めて下さい!」「アニータ!」「止めて下さい!」、よろしいか。
主税 フィーリングは分かり申した。
堀部 じゃ、行き申すぞ。練習で御座る。「アニータ!」
主税 「止めて下さい」
堀部 「アニータ!」
家老 誰じゃそりゃ。
大石 お前が誰じゃ。(殴る。)…まあ、行き申そう。
堀部 分かり申した。
大石 御家老、一番後ろから付いてきて下さい。同士討ちにならぬようにな。
堀部 して、主税殿、このうどんは如何に致す。
主税 これは…、如何に致すか、考えて居らなかったです。
大石 持っていくか。
堀部 我々こ、これで討ち入りか!(包丁とうどんを持っている。
主税 それでも良う御座る。
堀部 けれど、…東北地方の珍しいお祭りか何かじゃないぞ!
大石 堀部殿。
堀部 はあ。
大石 人によってはびびるぞ、これで。
堀部 色々な意味で怖いでは御座るが…。これは置いていき申そう。この、隅っこに置いてゆき申そう。
主税 んー、残念で御座るが、しようがないで御座るかな。
堀部 それじゃ、仕舞い申すか、何か袋は有り申すか?
主税 いやまあ、取り合えず、これに入れてもいいで御座るが。
堀部 中はそこそこ…、ああ、もう入れるで御座るか。
主税 入れるで御座るか、入れてもいいで御座るか?、ま、まあささっと入れるで御座る。
家老 で、
堀部 で?
家老 討ち人りに参加するのは、これで全員か?
堀部 いや、そんなことは無かろう。
大石 とりあえず、前に名乗り出てきたのは今のとこ4名。…(客席に向かって)もう分かりますな、我々阿穂藩と一緒に、討ち入りに行ってみないかーい?…志願者は手を上げて下され。居なければ指名します。
主税 あの、討ち人りについて来ると、うどんが食べられます。
大石 優先的に差し上げよう。誰か居られませんか?、勇気のある方は。

一人、手を上げている客が居る。

大石 あ、上がってきて下され。

客、舞台上に上がってくる。すなわち、阿穂浪士となる。

大石 本当にいるとは思わなかったよ。…それでは、討ち人りの証として、この鉢巻をして下され。(鉢巻を渡す。
浪士 (鉢巻を緒める
大石 おおっ、男が上がりましたぞ!…、ええ、家老の前から付いてきて下され。我々これから討ち入りへ参ります。
堀部 わ、我々の鉢巻はどうするのじゃ、
大石 あ!
堀部 ま、まあよう御座る。
大石 ちょっとお待ちくだされ。
堀部 有り申すか。
大石 わくわくしすぎたわい。(取りにゆく)言うまでも無いことじゃが、討ち入りは雨天決行じゃ。まあ、雪降っとるんじゃけどな。(戻ってきて)あれ、堀部殿、堀部殿?
堀部 いやいやいや。
大石 ああ、そんな所に。(鉢巻きを渡す。
堀部 有り難う御座る。
主税 それがししているで御座る。(料理用だ)彼に上げればよいでしょう。
大石 ああ。いつも寒いのに大変ですね。(渡す。
堀部 で、今日は残念ながら、本物は降っていないので、(小さな籠と紙吹雪を出してくる。)これで代用いたす。
主税 おお、雪で御座るな。
堀部 雪に御座る。
大石 それでは行きましょうか。貴方はこれを揺すりながらついてきて下さい。

雪降らせキットを阿穂浪士(客)に渡す。

大石 いいですか。
浪士 (雪を降らそうと
大石 まだまだ、フライングフライング駄目駄目。
堀部 ここは室内じゃ。
主税 では、行き申そう。
堀部 どう行き申すか、しかし。
大石 本当だなあ。

客席がほぼ満席で、通路まで埋まっており、通れなさそうだった。

主税 それがし靴が無いで御座る。
堀部 よう御座る。
主税 強引に行くで御座るよ、これは。…行けるで御座る!

大石 その辺は男らしいな。
主税 これはちょっと片づけるで御座るよこの辺。(ごそごそと。
大石 …では、皆さん。
主税 あったあった。
堀部 有り申したか。
大石 こんな時までシカトかい!…、殿への忠義の見せ所じゃ。
堀部 左様に御座るな。
主税 はい。
大石 では、皆の者。
堀部 は。
大石 討ち入りじゃ!
家老 うん。
堀部 は。
大石 吉良を倒し、殿にご報告するまでが討ち入りじゃ。
堀部 左様に御座るな。
大石 気を抜かぬように。それでは参りまするぞ。
堀部 参ろう。

強引に客席の中を通ってゆく。

大石 お、道が自然に開いてゆく。日頃の行いが良いので御座りまするな。
家老 おっとっと。閉じないように。

家老以外のメンバーはそのまま会場の外へ。家老はドアの所に残る。

家老 さあ討ち入りじゃ。討ち入りじゃ、討ち入りじゃー。(言いながらドアを開める。
吉良 (出てきてお客さんに向かい)…と、いうことはここに残って下さった皆様は防戦側と。そのようにとらえて宜しいですな。(嬉しそうだ。)この、吉良を支持してくれたと。よおし、皆さん防戦をするで御座居ますよ。…まずあの、芋侍共を中に入れないことである。(ドアを押さえる。)×××た方は御協力お願いします。さあ、来るなら来い!

ノックの音。

吉良 何者じゃあ!
大石の声 さらしものじゃ。
吉良 どう答えればよいのじゃ!
大石の声 ここは吉良の屋敷だな。
吉良 吉良の屋敷じゃいかにも。
大石の声 聞けなさい!
吉良 嫌だ!
大石の声 外に異常はない。開けなさい。
吉良 本人じゃ!
大石の声 じゃあ力ずくでゆくぞ!
吉良 来れるもんなら来てみろっ。
大石の声 行くで御座るよ。
吉良 おう。
大石の声 せーの。
堀部の声 よいしょ。

どん、とぶつかる音。開かない。

吉良 ふっふっふっふ。悔しいかあっ。

ノックの音。

吉良 何じゃ。
堀部の声 綱引きをしないか。
吉良 綱引きい?
堀部の声 綱引きだ、。
吉良 良かろう。我が吉良藩のカ見せてやるで御座る。

ドアが細く開いて縄が渡される。

家老 長いな。
吉良 こちらの方は40人か50人位は確実に居るで御座るぞ。
堀部 いやもう、これ以上はあげられぬ。…もうちょっとあげられる。もうちょっといける。
家老 …よろしい。
堀部 では、綱引きで御座るぞ、勝負で御座る。
吉良 さあ、この辺の方はちょっと引っ張って下さい。いいですか…、あ、お願いします。
堀部 いくぞ!
吉良 おお!
堀部 せーの、
双方 おりやっ!

ドアをはさんで綱引きを始める。綱はドアのノブに巻き付けてあるので、内側の綱が引かれると、ドアは中に開く。そして当然内価のカの方が強い。

双方 だあああっ。(ドアが開く。
吉良 人れてどうする馬鹿者!
主税 これは負けで御座るか?
堀部 いやあ、どうで御座ろうな。ま、ま、負けか?こりゃおい。
主税 悔しいて御座るよ。
大石 まあ、ここでは何だから、中入りなさい。
吉良 ここはわしの屋敷じゃないのか、この野郎。
主税 中はあったかいで御座るなあ。
堀部 外は寒かった!

大石側、ぞろぞろと中に入ってくる。

大石 …ちょっと待てよ。(吉良をじっと見て)吉良だな!
吉良 そうだ、いかにも吉良だ!
主税 吉良で御座るか。
吉良 吉良だ。
堀部 じゃあ殺そう。
吉良 ふっふっふ。
堀部 何だ、その余裕は。
吉良 そう簡単に、殺されるタマではないわ。
堀部 どういう事だ、そりゃ。
吉良 そこにおる――
主税 どちらだ!
堀部 これか。(何をさしたのかな。
吉良 違う!
堀部 これか。(家老を指す。
吉良 それだ。お前はそれを何だと思ってるか知らんが、それはわしのスパイだ。

皆、家老に注目。

家老 …ぼけ老人です!
大石 可哀そうに。
吉良 お前たちは騙されいる。私が騙されている気も一寸してきたが。…スパイ、何号だったかな。
堀部 335号だろう。(残念でした。353号です。
吉良 335号!
家老 はい。
吉良 後は頼んだぞ。私は、逃げる。

吉良、去る。

堀部 ああっ。(追いかけようと
家老 (阻止して)おっとっと。
大石 どうなされました、御家老。
堀部 御家老、これは一体どういう事で御座る。
家老 後を頼まれてしまいました。
堀部 あ、あと…、御家老はめちゃめちゃ親切なのか、ど、どういう事なのだ、これは。
家老 ここは一つ、
堀部 何で御座る。
家老 やはり、
堀部 はあ、
家老 勝負で片をつけねば。
大石 勝負とな。
堀部 分かり申した。
大石 望むところじゃ。
主税 勝負で御座るか、まあ、負けたで御座るからな、次は勝ちたいで御座るよ。
堀部 うむ。
家老 で、一体、どのような御準備をして、お出でなすった。
堀部 玉入れじゃ。
家老 玉入れ?
堀部 考え申したな、何か御座居ますか?
大石 いや、続けて下され。
主税 玉入れやりたいで御座るよ!
家老 そんな準備をしてきたのか。
堀部 我々は玉入れで負けたことはない!
家老 なにいっ。もしや、やったことが無いのでは。
大石 …痛い所を突かれましたな。

堀部 大石殿、そこで引いてはいかんで御座る。
主税 早くやるで御座るよ。
家老 うん、早くやろう。
堀部 左様で御座るな。
家老 で?
堀部 これちと、邪魔で御座るかな。(机の事。
家老 この辺に籠を並べるか。
猫 にゃあ。
堀部 ああ、それでも良う御座ろう。そうし申そう。

がさごそと、玉入れの準備をする。

主税 玉入れは…、何処なので御座るかな、
堀部 すると、我々はそれでは赤穂藩だから、赤で御座るな。
主税 ああ、「あこう」御座るな。成程。…こちらで御座る。(白い玉の入った袋を出してくる。)これは赤ではござらぬ。
堀部 これは白だ。
主税 これは白で御座るよ。
堀部 これは吉良のほうじゃ。
主税 吉良の方で御座る。
堀部 これは大分狭いから大変で御座る。
主税 こちらが赤穂で御座るな。(赤い玉を指す
堀部 左様。こちらが赤穂藩。
主税 しかし、それがしの方は、随分味方が少のう御座る。
堀部 いやもう、この、この際問題ない。
大石 いやいやいやいや。
家老 入れたもん勝ちじゃ。
堀部 左様。それで良う御座ろう。
大石 玉をどう配り申す。
家老 玉は、適当に。(籠から一気に投げようと
堀部 いやいや、それはいくら何でも危のう御座る。
家老 それでは一人一個づつ?、時間がかかる!、ええいっ。
堀部 じゃあ、適当で御座るなあ。
主税 こちらから投げるで御座るな。
堀部 分かり申した。
大石 貴方はここから投げなさい。(?)
家老 御協力お願いしまーす。(?、何故かうけてるが。)
大石 これ持っていなされ。(?)
家老 お頼いしまーす。

皆で客に玉を配る、というよりばらまく。

堀部 これは、時に、何個…、100個で御座ったな。
誰か すいません。
大石 我々に味方する人は赤を、吉良側に味方する人は白を投げて下ざれい。
堀部 とりあえず、投げて下さればよう御座ろう。
大石 赤がこちら、白はこちらに。
家老 この辺に!
堀部 今なんか一つ、重たいのがあった。あれは危ないなあ。あれは危ない。
大石 じゃ、参りましょうか。
主税 これで全部で御座るかな。
大石 時間はどれくらい。
堀部 とりあえず、じゃ、一分ということで。
主税 これを吹き終わるまでで御座る。(ピアニカのこと。
堀部 ああ、吹き終わるまで。
大石 我々は邪魔をよろしいのか、敵の。
堀部 まあそら良う御座ろう。
大石 じゃ、行きます。
主税 (ぷ、ぷ、ぷ、プー!…と、時報のように始まりを鳴らす。
大石 始めえっ。

玉入れが始まる。かなり見境なくびゆんびゆんと王が技げられた。舞台上の人間は、どちらかというとかわすのに必死であった。その中でも、家老と大石あたりが、姑息な攻防をしていたような気もするが、良く覚えていない。主税は運動会風のBGMを吹いていた。

堀部 ええええいっ。
家老 ?(大きな物音。)
主税 (たったかたー、と終わりを鳴らす
大石 タイムアップで御座居ます!
家老 うーむ…。
大石 微妙な勝負じゃな。

どう微妙だったのかな。

家老 取り引きじゃ。
大石 ん?
家老 量で勝負をせんか?
大石 駄目じゃ。
堀部 駄目駄目駄目駄目。
家老 こちらには、大物が一つ。

家老 数えるか。
大石 数えるのはかまわんが、わしのほうに白が入ってるのはどうしよう。
家老 こっちにも赤は入っとる!
大石 じゃ、それはノーカウントで。
堀部 ノーカウントで。…1つ2つって数えると時間がかかるなこりゃ、おい、しかし。
家老 ん?
主税 まあ、それくらい良う御座ろう。これくらいは。
堀部 よろしいか。
家老 のんびりやるからいかんのじゃ。
堀部 じゃあ、ひとーつふたーつみっつ、(速めに言う)ぐらいで。
大石 ついて行けるかのう…。
堀部 せーの。
家老 せーの。
二人 ひとーつふたーつみっつよっつ、

途中から家老のみが数を言っていて、堀部は止めてしまう。白い王は家老が数えながら籠から放り出している。赤い玉は大石が放り出している。しかし、大石の放り出すぺースは家老のそれよりずっと運い。明らかに意図的である。

家老 …19、20、21、22、23、…24、……25、(おしまいだ。
大石 (嬉しそうに)のこったーっ。
家老 残っているぞこちらも。
堀部 そら駄目だ、駄目駄目駄目。
大石 それは…、うちの藩の物。

大石 わしらの勝ちのようじゃな1
主税 勝ちで御座るな。
家老 うーむ…。
堀部 じゃあまあ、手っ取り草く、家老に死んでもらおうか。
家老 な、ななな何だ?
吉良 待たれよ。

再び吉良登場。何だか良く分からないが烏の頭のような物を被っている。

堀部 ああっ。
主税 ぬらりひょん!
堀部 いや違う、これは鳥の化け物だ!、吉良の正体は鳥の化け物だったのだ!
吉良 その通り…、化け物とは失礼な。
堀部 パパゲーノだ。
吉良 ちょっと高尚過ぎるんじゃないか、それは。

何かべりべりと昔がして、その後に客に受けている。多分かぶりものが落ちたか壌れたかだと思うが…。

堀部 各々方、今ので分かったが、奴の弱点はあの頭じゃ!
主税 あの頭をどうするので御座る。
大石 頭を切り取るのじゃ!
堀部 左様。
吉良 待たれよ!、貴様等今、私の卵を投げたであろう。
堀部 卵?
主税 これ、卵で御座るか。(玉入れの玉を取る。
吉良 赤いのと自いのは私の卵である。
主税 どう違うで御座るか?、赤と白は。
吉良 オスとメスじゃ!
主税 そうで御座るか。
吉良 貴様等も武士であれば、(何か落ちた?)おっと。…将軍家の命令に逆らう事は出来ない。どうじゃ。鳥類哀れみの令により、貴様等は切腹じゃ!
大石 そんな物が怖くて、討ち入りに来れるか!
堀部 左様!

大石側、刀を構える。

家老 これは守らねば。
吉良 さあ、来るなら来い!、アルバトロス殺法だ!、見せてやる!
大石 哀れな奴じゃのう。
堀部 殺し申そう。
大石 ようし。
堀部 行きますぞ、各々方。
主税 取り合えず、刺すで御座るよ。
大石 よし。
堀部 頭を狙い申せ。
主税 頭を刺すで御座るか。

おそらく、ここで吉良側が、何か変な合体防御みたいな事をしていた。

大石 逆に狙いやすいぞ。
主税 確かに…、逃げられないで御座るな。
吉良 ほ、ほんまや…!
大石 では、参るぞ!、3、2、1!、でやあっ。

3人、かぶりものの首を切り、吉良を殺す。

吉良 あアアアアアッ。(ばたり、死んだ様である。
大石 (吉良のかぶりものの首を取り)打ち取ったり!

お客さんから拍手がありました。

主税 これは、いい出汁が取れるで御座るか?
堀部 お主は本当にそればっかりじゃ。

不思議な音が。これはオペミスかな。

大石 何か映るぞ。
主税 何がで御座るか?
大石 もうそれはいい。気を抜くな。
主税 何かあるで御座るか?
堀部 まず、その裏切り者を片付けねばなりませんな。…御家老、覚悟はよろしいか
大石 せーの。

3人、家老を切り殺す。死ぬときに家老がもう一ボケしてるようだが、何をしたのか?

大石 堀部殿、
堀部 は。
大石 ああいう星の成りかたもあるのかな?

大石 気を抜くな皆の衆。
主税 確かに気を抜いてはいけないで御座るな、これは。次に何がおこるか分からないで御座る。
大石 首を打ち取った!
堀部 は。
大石 吉良を打ち取ったと殿に報告するまでが討ち入りじゃ。
主税 殿とは話せないのでは御座居ませんか?
堀部 祈りじゃ。
大石 念じるのじゃ!
主税 ああ、念じるので御座居ますか。
堀部 左様。
主税 こ、こうで御座るか?(合掌する。
大石 1ら不乱に殿に会う事を念じるのじゃ。
主税 との、とのとのとのとの、って感じですか。
大石 いや、「感しですか」じゃなくて、そう思え。
堀部 左様。
大石 思えや!
主税 との、とのとのとのー
大石 いや、口に出さなくていい。お前寝る時、羊が一匹とか言うか?、口で。
堀部 大石殿!、もういいから。(念じる。
大石 それでは。(念じる。

不思議な音。スライドで後ろに天国に居る浅野の絵が映される。

語り 僕等の名前は、ぐりとぐら。

あの世で一番好きなのは、お料理すること、食べる事。

天国はいい所だよ一。

みんな早くこっちにおいでよー。
 

主税 殿の言葉で御座るな。
堀部 聞き申したか皆の方。
大石 確かに聞こえました。
堀部 殿は天国で一人、寂しそうにしておられた。
主税 楽しそうだったで御座るよ。
堀部 まあ、それもそうで御座るが。
主税 後を追わねばなりませぬな。
堀部 左様。
主税 殿の元に行くで御座るか。
堀部 左様に御座る。
大石 じゃ、…切腹ですな。
堀部 左様で御座る。
主税 切腹で御座るか。
大石 我々…、そうですな、我々親子は先に死にます故、
堀部 分かりました。
大石 (浪士を指し)彼を殺した後で、堀部殿も後から来て下さい。
堀部 分かり申した。
大石 それでは。
主税 それでは。
大石 (浪士に)刀を貸してあげてくれませんか。
堀部 分かりました。
主税 では、いきまする。
大石 では、いきまするぞ。…殿、今参ります。せーの!

大石と主税、切腹して死ぬ。

堀部 では、失礼してこの刀をお借りする。…(浪士に向かい刀を差し出し)さあ、これで殿に会えるのじゃ。思い残す事は無いな。
浪士 …。
堀部 言っとくが、一人だけ生き残ろうとしても、それがしが見張っておるからな!分かり申したな。では行きますぞ。3、2、1、はい。

浪士、切腹して死ぬ。

堀部 それではそれがしも。せーの。

堀部、切腹して死ぬ。
ややして、死んだはずの吉良がむっくりと起き上がる。頭に被ってるものを脱ぐ。

吉良 …また死ねなかった!、…まだまだ、鳥に対する思い入れが足りんということか…。南の島へ、修行しに参ろう。

吉良、下手(しもて)の暗幕を落とし、出てきた窓から外へ出てゆく。『コンドルは飛んでゆく』のメロディーが聞こえてくる。窓の外で羽ばたく吉良。

吉良 (窓の外で)さよならニッポン!

語り 飛ぶんだ吉良、羽ばたけ吉良、力の限り、どこまでもー!

羽ばたいてゆく吉良。音楽が大きくなってゆく。

吉良は何処へゆくのだろう。

おしまい。

いやあ、文字だけだと殺伐としてんなあ。終盤は刺したとか切ったとか殺したとかばっかりだね。

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