第7回やみいち行動、上演の記録

レイアウトを少し直して、人名に色をつけました。
妙にポップな色調です。
内容との不釣合いさがたまりません。
第7回やみいち行動   (199912/12 14:00〜マチネ)
『アンコく街の顔役』
登場人物

シルフォンス・コポネ(ボス)………………藤原康弘
チョビエーリ・チョビエリー二(部下)……桶雅景
コシアン・コルジオ(部下)…………………池田一平
アンコニオ・フケンコウ(部下)……………鬼豚馬
ホッペターニョ・フックラーニョ(部下)…吉本和孝
 

場所

マフィアの隠れ場所のようなところ。
(上手にドアが一つある。)

激しい音楽。

スライドタイトル。『やみいち行動』

物哀しい音楽。

スライド。古き時代の数々の写真

ナレーション これは昔、本当の人間らしい生き方があった頃、それを求めて闘った男達の記録である。

スライドタイトル。『アンコく街の顔役』

明転

舞台上に役者がスクリーン(牛乳パックで出来ている)を客席に向げて広けながら立っている。
コポネ、登場。スクリーンの前に立つ。

コポネ (客に向かって)おうっす!…返事が無いなあ、もう一回だ、おおーっす!

客席から返事?

コポネ 今、私に対して返事をしてくださった全ての皆さん、ありがとうございます。
…年は取りたくないですねえ…
では、わたくしシルフォンス・コポネと申します。今は1927年、所はアメリカ1927年と言えばアメリカ合衆国は禁しるこ法時代のまっただなか…
禁しるこ法とは何でしょう、しるこを食べてはいけないという法律だ。何故しるこを食べてはいけないのか…
太るからだ。しかし人が自由に太れないような、そんな、人間が、人間としてただしく有れないような、酷い時代が有っていいものか…
その、酷い時代を、皆さんにスライドで御覧戴きましょう。

スクリーンにスライドが一回巻き戻されてから、再び投射される。

コポネ これは、私の部下の、しるこ密造員が、しるこ捜査官に倹挙されて、電車で連れていかれるところです。
(次のスライドになる。)…これは私の密造した、しるこの樽が押収されて、たたき割られているスライドです。
(次のスライドになる。)…これは、この辺をようくみると分かるんですが…(スライド、の一部を指し示し)しるこ、しるこ、しるこ…これは、私のしるこ密輸船が、検挙されて、二重底になっていた船の底から、しるこが押収されている写真です。
(次のスライドになる。)…これは私のしるこを押収したしるこ捜査官が、街のドブにしるこを捨てている写真です。
(スライド消える。)…しかし、人々はしるこを求めている。そこで私は、しるこ密造組織を作り上げ、今も、巨額の富と地位を得るに到ったというわけです。だが私の地位と権力が余りにも大きくなり過ぎたため、アメリカ連邦政府はとうとう、私を本気で逮捕しに来たらしい。FBIの中に『アンタッチャブル』という、捜査組織が組織されたと聞いた。
…『アンタッチャブル』…私が思うにこれは、「アンコにタッチしろ」という意味だ。アンコと言えば、この、しるこ密造王、シル・コポネのこと。これは多分、私を逮捕するための秘密組織に違いない…
しかも、私の組織の中に裏切り者がいるらしい。スパイが紛れ込んでいるらしい。そこで私は、この、一日に五万本の生産が可能なしるこ工場を、今まではある理由があって閉鎖していたのだが、再開するという情報を流して、そのしるこ工場に、私の組織の中でも、とびきり裏切り者っぽい人間を集めてみることにした。ここでの人間模様を見ていれば、誰が裏切り者で、だれが本当に素晴らしい私の友であるかが、分かるに違いない…このシル・コポネ様を裏切ったらどうなるのか、どうしても思い知らさなければならない。
……ああ、そうこう言っているうちに、礼拝に行く時間だ。私ほど信心深い人間はいないからな。−じやあ、運転手のホッペターニョ・フックラーノJr.を呼んでみよう。ホッペターニョ・フックラーノJr.!
ホッペ (スクリーンを少し下げて、顔を出す。)ヘい。
コポネ お、いたのか。車を回せ。
ホッペ ヘい。(下手にはける。)

ホッペ ボス。(ソデから顔を出す。)
コポネ なんだ。
ホッペ 赤い救急車と緑の救急車、どちらにしますか。
コポネ 救急車は嫌だ。
ホッペ ちょっとお待ち下さい。(引っ込む。)

ホッペ ボス。(再び顔を出す。)
コポネ なんだ。
ホッペ 歩きますか?
コポネ …まあ、それでもいい。
ホッペ どこの道から行きますか?
コポネ そういえば、ホッペターニョ。
ホッペ ヘい。
コポネ お前、私が、咋日車の中に飲み残した…おしるこを、飲んだな。
ホッペ …はい。
コポネ てめえ―
ホッペ ボス。
コポネ おれのしるこに手をつけたら、どうなるか分かっててやってるんだろうなあ。
ホッペ ボス…ボス!
コポネ なんだ。
ホッペ 細かいこと言うなよ。
コポネ ……。
ホッペ いっぱいあるんだから。僕が何年尽くしてきたと思ってるんですか、ボス。
コポネ …おめえみたいな、中途半端な忠誠心は―
ホッペ 俺はそんなボスに育てた覚えは無い!
コポネ 死ね。(銃で撃つ)
ホッペ (撃たれて、苦しみながら、)…いかりや長介…その本当の名は、…長一
コポネ 俺様に逆らったらどうなるのか…死ね…(更に何発も撃つ。)…とくと思い知ったか。

暗転。

明転するとチョビエーリとコシアンが椅子に坐ってポーカーをしている。

チョビ いくぞ。
コシアン ああ。
チョビ クイーンのワンペアだ。
コシアン ストレート。
チョビ 畜生。(上着を脱ぐ。)…もう一勝負だ。
コシアン いいだろう。

カードが配られる。

チョビ それはそうとお前聞いているか。
コシアン 何を。
チョビ あの噂だ。
コシアン 噂?
チョビ FBIの、ふとり捜査官がもぐり込んでるっで噂だ。
コシアン …そりゃあ…おとり捜査官じゃねえのか。
チョビ そうだ。…お前、聞いてるか?
コシアン しらねえな。
チョビ なんだか、怪しい奴が大分入り込んでるって噂だせ。
コシアン ほう。
チョビ それは…そうと、今度こそ運が向いてきた感じだなこりゃ。
コシアン ほう。
チョビ いいだろう。…ストレートだ。
コシアン …ツーペアだ。
チョビ どっちが強いんだ。
コシアン そりやあ、こっちだろう。
チョビ そうか、畜生。(もう一枚服を脱ぐ。)
コシアン これをみりゃ分かるだろう。
チョビ 本当だろうな、それ。
コシアン 本当だ。
チョビ もう一勝負だ。
コシアン おめえ、ポーカーをしらねえんじゃねえか?

再び、カードか配られる。

チョビ 3枚交換だ。
コシアン 俺はこれでいい。

チョビ …いいだろう。クイーンのスリーカードだ。
コシアン スリーペアだ。
チョビ なんだそれは!…畜生。(ズボンを脱ごうとする。)

ノックの音。

 牛乳パック回収入のアンコニオだ。入るよお。

チョビ いいタイミングだ…

ドアを開け、アンコニオが入ってくる。

アンコニオ ああ、今日は、北海道らくれん3.7牛乳とか、ないかな?
チョビ なまず。
コシアン ズブロッカ。
アンコニオ え?「く」?
チョビ 「か」。
コシアン 「か」。
アンコニオ カシスオレンジ。
チョビ ジンライム。
コシアン ムッソリーニ。
アンコニオ …にぎにぎ。
チョビ 間違いない。こいつは本部からの連絡員だ。
コシアン まちげえねえ。
アンコニオ (ほっとして)ああ、いつ殺されるかと思ったよ。ヒヤヒヤしちまったよ。
…ああ、本部からの連絡だ。今日は、こいつだ。

アンコニオ、しるこを出す。

チョビ これはおめえ、しるこの原液だ。
アンコニオ ま、そうみたいだな。
チョビ すげえまだあったかいぜ。
コシアン おお、人肌だな。
アンコニオ 出来たてって感じだろ。
チョビ こ、これはおめえ、何だこれは(と横の袋から何かを取り出す。)
アンコニオ 見たところ、ゆであがった、そうめん…みてえだな。

間。

アンコニオ いや、でも、まあ本部がそういうんだから多分これで一杯やれってことだろう。…ああ、椀の準備も出来てるよ。(と碗を出す)…俺はMY椀でいかしてもらうぜ。
チョビ それは、いいが、…
アンコニオ どうした。
チョビ これ、は…どうするんだ。(しるこを示す。)
アンコニオ やっぱここにしるこの汁があって、椀があって、そうめんが有るんだから、これは、タレだろ。
チョビ それはおめえちょっと、しるこに対する冒漬じやねえのか。

アンコニオ、そうめんにしるこを少しかける。

アンコニオ ま、こんなもんかな。
チョビ ちょっとまておい。
アンコニオ なんだ。
チョビ もうちょっと入れてくれ、せめて。
アンコニオ …これ一体いくらするのか知ってんのかおめえ。
チョビ そら分かってるけどさあ、もうちょっと入れてくれよ。
コシアン これじゃあ、何か、ちょっと甘いだけのそうめんだな。
チョビ これじゃおめえ、生殺しだよ。
アンコニオ おめえら、裕福な奴らだなあ。

アンコニオ、そうめんにしるこをもう少しかける。

チョビ ほんとにしみったれてんな、おめえ。
アンコニオ 俺はこんでいい!
コシアン どうもこいつは…
アンコニオ ああ、箸もあるぜ。ええっと、これはMy箸…
チョビ どっちにする?(極端に大きい箸と、ふつうの箸がある。)
コシアン 好きな方を取ってくれ。
チョビ じゃ、今日はこっちだ。(取る。)

全員、椀を持つ。

アンコニオ じゃ、しるこそうめん―
チョビ まあおまえからいけよ。
コシアン 遠慮するな。
アンコニオ(嬉しそうに)そうかい。じゃ、いただきやす。
チョビ えらいことなっちまったな、こりや。

皆、しるこそうめんを食べる。

アンコニオ (食べながら)なかなかのもんだな。
コシアン (食べながら)この、固まりになってるのは何とかならんのか。
アンコニオ (食べながら)ひっぱりあいっこするんじゃねえのか。
チョビ (食べるのをやめ)俺はもういい。(アンコニオに返す。)
アンコニオ これ全部食うのか。
チョビ 食え食え、食っちやって。
アンコニオ …それは残念だな。せっかくの本部もんだってのに。
チョビ 何が本部もんなんだ。
アンコニオ いや、本部直送、本部ものだ。
チョビ 本部ものか。
アンコニオ ああ。
チョビ 健康なのか不健康なのかわからんなこりゃ。
コシアン でもなかなか、味は悪くなかったような気がするが。(アンコニオに)洗った方がいいのか?
アンコニオ まあ、そこ置いといてくれや。
コシアン 一応洗っとこう。(流しにいって椀を洗う。)
チョビ ところでおめえさん。
アンコニオ ん?
チョビ 本部からの連絡、これだけ?
アンコニオ うん。それだけだよ。
チョビ これだけ。
アンコニオ うん。
チョビ おまえさん、ここのしるこ工場を再開させるって話は聞いてるんだろうな。
アンコニオ ん?いや。…俺は、連絡係だ。
チョビ おかしいな。
コシアン ボスからの指令があるはずだ。
アンコニオ ボスからの指令…
チョビ 指令書だよ。いつもこう、紙っきれに簡潔な指令書が――
アンコニオ これじゃねえのか、(お盆の上から紙片を取る。) (読んで)しるこ飲め シル・コポネ。
チョビ いや、他にあるだろう。
アンコニオ ええ?
チョビ ないのか。
アンコニオ 見覚えねえなあ。
チョビ なんかもっとこう――
アンコニオ まさか、そうめんの一本一本に書いてあったとか、そういうんじやねえだろうなあ。
チョビ 書いてなかったよ。全部見たのか。
アンコニオ でも、白い文字で書かれたりなんかしたあかつきにゃ、俺読めねえよ。
チョビ 誰も読めねえよ。
アンコニオ ええ?
チョビ そんな可能性は考えなくていい。
アンコニオ そ、そうか。
チョビ もっとこう何か、例えば交差点で待ってる時に、隣の男にさりげなく渡されたとか。電話ボックスに入ってみたら何か包みが置いてあって、持ってきたものが――
アンコニオ ああ、そういったもんかい。そういうものなら(袋の中から何か取り出す)今日はよう、これ持ってくる途中で近所のかわいいガキに会ってよ、ほら、どうだ、(と、コウモリの写真を見せる)これ、コウモリらしいんだな、それで、これ、多分俺の9年前の写真らしいんだな。世間に出回っている(10代の終わり頃の自分の写真を見せる)
チョビ はあ、そうか。
アンコニオ どうだい、そっくりだろ。
チョビ ボスの指令書じゃないだろそれ!
アンコニオ だから、ガキンチョからもらった…、
チョビ ああ、もらった物な、うん。
アンコニオ ガキンチョが――
チョビ もっと怪しいものだ!…怪しい、な…何というんだろう…
アンコニオ これ、(と黒い物を鼻にくっつけ)ペたって、くっつけて…俺は有り難くもらっちやったよ。
チョビ それ、違うな。
アンコニオ 違うか。
チョビ 違う。もっとこう、工場を動かす…機械を動かす、マニュアルみたいなもんだ。

アンコニオ、本をじっと見る。

チョビ いや、書いてないだろ、何も。
アンコニオ え?
チョビ どのレバーを押すとどの機械が――
アンコニオ トリプルノーズリリパッド、トリアノプスペルシクス、
チョビ コウモリの写真じやないか
アンコニオ 首がこうなってる。
チョビ 違う、それは違う。
コシアン 他に本当にないのか。
アンコニオ ああ…(袋をガサゴソする。)まあ、牛乳パック回収中に、ゴミ漁りもしとるんでな…これは、48丁目の角のごみ箱で拾った。…ええ、これは、ちょっと途中で、骨董品屋のフーマンチュウの親父の家で買った。後は、牛乳パック…
チョビ 何か、これはというのがねえな。
アンコニオ こっちは、えーと、いざという時のしるこ杯。えーと、
チョビ いざってどういう時だ。
アンコニオ これか?
チョビ ああ。
アンコニオ しるこ兄弟の、義兄弟の契りを交わすときに必要なのよ。
チョビ おまえはその、年がら年中――
コシアン その言い回し、おめえもしかして、シルキストか?
アンコニオ 何故そんな名前を知っている…ああ、シルキストだせ。
コシアン 俺も、シルキストだ。…シルキストの、コシアン・コルジオだ。
アンコニオ コシアン・コルジオ?コシアン・コルジオと言やあ…禁しるこ法案発令の日にうちのボスが主催して、大闇しるこ大会をやったときに、全員がたらふく食って、こんな鍋が空になったあと…そこに、捜査員が入り込んできて「おめえら全員逮捕する。」て言った時に、「これは、俺が一人で飲んだ。他の奴には関係ねえ。」って言い切って、次の日の現場検証の時にも実際にこの大鍋一杯のしるこを飲み干した…あの、コシアン・コルジオ?
コシアン そうだ。
アンコニオ あの時の刑で、禁固5年、禁しるこ2年の刑を食らった…はずだ。
コシアン よく知ってるじやねえか、でも、禁しるこは1年だ。
アンコニオ ああ、すまねえ。き、記憶違いだ。…え、えーと、こんな場合は…(碗を出し)この椀に、見覚えないか?
コシアン こいつは…(じっと見る)これは、おい、俺がシルコニオにやった椀じやねえか。
アンコニオ シルコニオが慕っていた、コシアンさん。
コシアン なんでおめえが、これを持ってるんだ。
アンコニオ 俺は、シルコニオの弟の、…アンコニオだ。
コシアン そうか、おめえ、シルコニオの弟か!
アンコニオ ああ!
コシアン そうか、そういや、この眼鏡とかこの鼻に付いてる奴とか、よく似てるぜ!
チョビ 眼鏡はそれ、フレームのデザインが同じなだけやろ。
アンコニオ …今いい所なんだ。水ささねえでもらえるかな。
チョビ それは悪かった。(ドアから出てゆく。)
アンコニオ こんな所で、コ、コシアンさんに会えるなんて、俺は幸せだ。
コシアン おお、それでおめえ、シルコニオはどうした。俺は、あいつを慕ってるんだよ。
アンコニオ ……シルコニオは…死んじまった。
コシアン 死…
アンコニオ 禁しるこ法発令3周年記念、大闇しるこ早食い大会。シル・コポネ一家とゼンザイーノ一家との間で、行われてよ…その、シル・コポネ一家の側の代表が、兄貴だったんだが、そこで、ゼンザイーノの、あの、ヒジョー二・ゼンザイスキーの野郎に負けちまったんだ。
コシアン ヒジョー二・ゼンザイスキーか!
アンコニオ でもよ、おかしいと思わねえか、あのシルコニオがゼンザイスキーごときに負けると思うか?…ゼンザイーノ一家はよ、やつらは、自分らの飲むぜんざいには、金がねえからって、俺らシル・コポネ一家のしるこの、半分しか、砂糖を入れてなかったんだ!そりゃあ飲めるわなあ!
コシアン そんな、ひでえことやりやがったのか!
アンコニオ ああ!
コシアン ようし、復讐だ。(銃をかまえて出ていこうとする。)
アンコニオ ああ兄貴!(止める。)大丈夫、仇はとった。次の年の禁しるこ法発令第4周年記念、闇しるこ早食い大会。俺がシル・コポネ一家の代表として出て勝ったよ。ゼンザイスキーは、兄貴と同じシルコイヤイヤ・モンゼツシンドロームに陥って、地獄へ行っちまいやがった。
コシアン 俺のいない間に、いつの間にかそんな事になっていたとは…
アンコニオ ああ。
コシアン 覚えているか?シルコニオの事だ。
アンコニオ 覚えてるさ。
コシアン 奴は一流のシルキストだった。
アンコニオ ああ。
コシアン 奴の得意伎は、片方ずつ鼻からしるこを吹き出すことだった。
アンコニオ そうだ。
コシアン 奴の凄いのはそれだけじゃねえ。
アンコニオ そうだ。覚えててくれたか。
コシアン 耳からもしるこを吹き出すことが出来たんだ。
アンコニオ ああ、しかも、0.3秒おきに、右の耳、右の鼻、左の鼻、左の耳、これを3回繰り返すことが出来たんだ。
コシアン ようし、シルコニオの弔いだ、あれをやろう。
アンコニオ あれってえと…
コシアン あれだよ。
二人 (声を合わせ)しるこ体操
アンコニオ お、俺よう、結構、シルキスト、成り立てほやほやみたいなもんなんで、俺しるこ体操第一しか知らねえんだけど…
コシアン 第一だけでいい。
アンコニオ いいのか。
コシアン いい。…いくぞ。
アンコニオ ああ。

二人、しるこ体操をはじめる。

コシアン ♪あずき…(あずきの動き)
アンコニオ ♪あずき…(同)
コシアン ♪おなべ…(おなべの動き)
アンコニオ ♪おなべ…(同)
コシアン ♪おみず…(おみずの動き)
アンコニオ ♪おみず…(同)
コシアン ♪さとう…(さとうの動き)
アンコニオ ♪さとう…(同)
コシアン これだけだ。
アンコニオ そうだ。こんなんだった。

アンコニオ ♪あずき…おなべ…おみず……さとう…(二人でもう一回体操する)

アンコニオ うん!久し振りだよ、この「しるこ体操」、何しろあんまり人前で一人でやるなって禁じられていたからな。
コシアン ああ。
アンコニオ こんな所で、兄貴を一番可愛がってくれていた、コシアンさんに会えたのも何かの縁ですね。

チョビエーリが戻ってくる。

チョビ やあ、もういいかい。
アンコニオ ああ、何か、すまなかったな。
チョビ いやいや。それで。
アンコニオ うん。
チョビ 本部からの指令なんだけど。
コシアン そういえばそうだ。
アンコニオ …んでよお、…ちょっと待った、おめえ、誰だ。
チョビ 俺はツッコミだ。
アンコニオ おめえは、ツッコミなのか!
チョビ さっきからつっこんでるだろう。
アンコニオ ほれ。(親指と人差し指で輪を作る。)
チョビ 俺はツッコミだ。(そこに指を突っ込む。)
アンコニオ ほれ。(腋の下をあける。)
チョビ (そこに首を突っ込む。)すぼっ。
アンコニオ ほんとにおめえの名前はツッコミなのか?
チョビ いや俺はツッコミのチョビだ。
アンコニオ ツッコミのチョビ。
チョビ ツッコミのチョビだ。
アンコニオ な、何だか岡っ引きみてえな名前だな。
チョビ 俺はツッコミュニストなんだ。
アンコニオ ツッコミュニスト、それはなんだ、職業か?
チョビ 違う。
アンコニオ ん?
チョビ 思想だ。
アンコニオ 思想なのか。(すこしびびっている。)
チョビ そうだ。
アンコニオ 思想には、俺、ちょっとかなわねえな。…ということは、「ツッコミの」が名字で、「チョビ」か名前なのか?
チョビ なんでやねん。
アンコニオ つっこまれてしまった!
コシアン さすが「ツッコミのチョビ」だ。
チョビ 全ての人民にボケとツッコミを、だ。分かるか。
アンコニオ ああ…言葉としては分かるが、…
チョビ これがツッコミュニズムだ。
アンコニオ ツッコミュニズム。
チョビ それだけだ。
アンコニオ (コシアンに)おい、ツッコミュニズムってのは、シルキズムとどっちが偉いんだ。
コシアン シルキズムの方が偉いに決まってるだろ。
アンコニオ そうか、こ、ここでうろたえちゃならねえ、そういうわけだ、な。…分かった。…(威勢よく)で、ツッコミュニズムさんが、どうしたのかな。
チョビ だから、本部からの指令だって言ってるだろ。…その、君の持ってきた、他の荷物もちょっと、見せてもらおうか。
アンコニオ (ガサゴソと)いや、だから、拾った牛乳パック…しるこ…
チョビ これは、他に何が入ってる。
アンコニオ こ、これか?んー、シルカップ以外には…
チョビ シルカップ以外には?
アンコニオ これちょっと禁制もんなんだけどよ、ボスに内緒で、ジンサンシバンムシ・エキス作ってるんだ。
チョビ ジンサンシバンムシ・エキス。
アンコニオ ああ、朝鮮人参をたっぷり食わせたジンサンシバンムシをよ、アルコール潰けにして…こっちは一年もので、こっちは二ヶ月ものだ。
チョビ この、穀物っぽいものは、虫?
アンコニオ 虫だよ。あずきに涌く虫だ。
チョビ …これは、なんというか、なんともいえねえな…
アンコニオ 一年ものと、二ヶ月ものの差は明らかだ。一年ものは沈んでいる。二カ月ものは浮いている。
チョビ それは、アルコールが染み込みきっていないからか。
アンコニオ そうだ。
チョビ ちょっと怖えな、そりゃ。
アンコニオ ん?
チョビ 怖えわ。
アンコニオ しるこに入れると、うめえんだぞ。
チョビ 入れないよ。(コシアンに)ど、どう、いれるか?
コシアン 入れない。
チョビ マスターがこう言ってるから、入れない。
アンコニオ そうか。…ちゃんと小売も出来るように、パッケージもあるんだけどな。
チョビ 売れるのか、それは。
アンコニオ 一本25ドルで、売れるよお。
チョビ 高いよ、それ25ドルって。
アンコニオ 禁制ものなんだぞ。
チョビ 私立探偵が20ドルで雇える時代なのに。…他は?
アンコニオ 他は、え一と、(ガサゴツと)非常食のどんぐりだろ。
チョビ 食えないだろ、人間は、それ。
アンコニオ 食うよ。
チョビ 食えるのか?
アンコニオ 食えるよ。煎って食うんだよ。フライパンにいれて。
チョビ フライパンでどんぐり煎って。
アンコニオ ああ。
チョビ ポップコーンみたいになる?
アンコニオ 弾きゃあ、飛んでいくぜ。
チョビ あぶねえな、それ。ビシとなるじゃないか、サルカニ合戦みたいに。…まあいい、次いこう次。
アンコニオ あとは…俺はよ、コポネさんの357番目の部下だから、こんな事しかやってねえんだけど、…コポネさんのペットの蜘昧を、飼ってるんだ。(蜘蛛が入った瓶を出す)これの世話なんだ。
チョビ (指差し)この中に、入ってらっしやる?
アンコニオ 入ってらっしやる。
チョビ 生きた蜘蛛が入ってらっしゃる?
アンコニオ ここにいるよ。

覗き込む。

チョビ あ動いてる。
アンコニオ ちなみにここに居るのは、おとつい餌にやったアブの死骸だ。
チョビ はあ、ワイルド…だな。
コシアン もしかしてそのせいか?ここが蜘蛛の巣だらけになっているのは。
アンコニオ いや!これはハエトリグモだからよう、そんな蜘蛛の巣―
チョビ 作らない?
アンコニオ ああ。
チョビ 作らない。
アンコニオ 何だったら蜘昧の種類調べるか?(本を出す)
チョビ 何でそんな本持ち歩いてるんだ。
アンコニオ いやあ、やっぱり、今の蜘蛛が何か、ボスに聞かれたときに迷っちやいけねえと思って、ちやんと挟み込まなきやいけなかったんだ、。
チョビ ああ、そりゃ立派だが…全部これは本部の指令ではない。
コシアン (ゴソゴソして)何か…大体これ何だ?
チョビ これおめえ何だ。
アンコニオ それは、フーマンチュウの所で買った…
チョビ これは、どうした。
アンコニオ それはゴミ箱で拾った。
チョビ ゴミ箱で拾った方があやしいな。よく、駅のホームとかでさりげなく受け渡し――
アンコニオ おれは、単に捨っただけだよ。
チョビ これお前何だこれ。
アンコニオ ん?
チョビ 何だ。
アンコニオ ビーチボールだ。
チョビ それは分かるよ。これ、捨ってきたの?
アンコニオ うん。
チョビ (もう1つ出し)これもビーチボールだ。
アンコニオ ああ、ビーチボール。
コシアン おお!見ろ!ボスの指令書だ。
チョビ 思った通りだ。
アンコニオ な、何でゴミ箱から拾った物にボスの指令書なんか入ってんだよ。
チョビ 全てはボスの思うがままだ。
コシアン 全てお見通しって訳だ…
アンコニオ 何て書いてあるんだ?
コシアン 「1人1つずつ、4つのビーチボールを膨らませ。」
チョビ 1人1つずつ、4つのビーチボールを膨らませるということは、(考えて)…余るな。
アンコニオ 余るな。
チョビ ということは。
二人 もう一人。
チョビ 来るんだ。
コシアン 来るんだ。
アンコニオ 来るんだな。
チョビ 全て思うがままだ。
アンコニオ ど、どんな奴が来るんだろう。
チョビ それは、やっぱり…駄酒落好きな奴だと思う。
アンコニオ 駄洒落好き!?というと、(チョビに)おめえさんの客か?
チョビ そうかもしねねえ。
アンコニオ そうまでしてツッコミてえのか、おめえは。
チョビ そうかもしれねえ。
アンコニオ やだなあ。
チョビ …主に、食べ物についての駄洒落を言いそうな気がする。
アンコニオ 食べ物についての駄酒落。
チョビ 食べ物についての駄酒落を言いそうな気がする。
アンコニオ ああ、例えばどんなだ。
チョビ 例えば、
アンコニオ ああ。
チョビ それ先に言っちやまずいだろ。
アンコニオ そうか。
チョビ そうだ。
アンコニオ …いや、ここで言えば、奴がしまったと思うかもしれねえじゃねえか。
チョビ そうかな。
コシアン あまり思わないんじゃないか。
チョビ どうだろう。
コシアン 何か言ってみよう。
チョビ ショック大ライスとか。
コシアン すいか安いか。
アンコニオ ……何で皆そんなすらすら出てくるんだ。
チョビ そりゃお前、事前に考えてるからだよ。
アンコニオ …俺は、呼ぶ!…ええ、どう呼んだらいいのかな。…のろしでも上げたらいいのか?
チョビ そりゃ報知器鳴っちゃうからだめだ。
アンコニオ ああ、だめか。
コシアン とりあえず、「おーい」でいいだろう。
アンコニオ 「おーい」でいいか?
チョビ いいのか。
アンコニオ よし。
アンコニオ お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い
コシアン お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い
チョビ お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い

ドアか開き、ホッペターニョが出てくる。

ホッペ そんなバナナ。
チョビ 見ろ、思った通りだ。
アンコニオ おめえ、俺より偉えな。
ホッペ (ビーチボールを見つけ)ああ、これか。…あの、ビーチボール返してもらいに来ました。あの、うちの子が泣いてるんですよ。あんた、あんたか!誰や?ビーチボールを盗んでいったやろ、うちの子から。
アンコニオ 盗んだ?!
ホッペ うちの子ぶん投げていったやろ。
アンコニオ ぶん投げてないよお。
ホッペ うちの子が60センチ位なんをいいことに、ブンブンブンブンぶん投げていったやろ。
アンコニオ ちなみに「うちの子」か、「うしの子」か、ちょっとはっきりしてくれ。俺は牛の子はよう、ぶん投げる体力ねえんだ。
ホッペ 牛の子なんかぶん投げられるかいな!あんたそんな力持ちかよ、おい。
アンコニオ じゃない。
ホッペ だろ。
アンコニオ うん。
コシアン まあまあまあまあ、ここはとりあえず、ビーチボールを膨らませるということで。
ホッペ いや膨らませるも何も、うちの物やから、返してほしいんすよ。
アンコニオ うちの物やったら膨らませられるやろ。
ホッペ 膨らませられるけれども、何であんた、こんな所で膨らまさなあかんの?(コシアンに)ええ年してあんたも何で昼から黒眼鏡?
コシアン 悪いか。
ホッペ 悪くはないけども、あんまりいいもんではないと思います。
コシアン とりあえず、膨らませたさそうな顔をしてるじゃないか。
ホッペ 人は外見で決めたらあかん。はい、とりあえず返して。
チョビ 膨らましてから返すよ。せっかく有るんだから膨らまそうよ。
ホッペ 膨らますって、子供と遊ぶもんやから。
チョビ いやいや、大人になってもハートを忘れちゃいけない。
ホッペ ハートは忘れちゃいけないけれども、そりゃ、自分で買うて下さいよ。
チョビ いや、返すからさ。
ホッペ 返す?
チョビ 返す返す。(銃を向ける)
ホッペ …まあ、それも一つの考え方やね。
アンコニオ (ビーチボールを一つ渡し)さあ、膨らませたのを土産に、子供に持って帰ってあげな。
ホッペ いや、空気抜いて帰りますけどね、こんなん持ってけへんから。
チョビ いや、持てるだろう。
ホッペ 持てるけど、これ何か嬉しそうなの、嫌じゃないですか。ビーチボール四つ持っていい年してどこ行くねんって話じやないすか。
アンコニオ ビーチ。
ホッペ いや、ビーチ、ビーチボールでビーチ――
アンコニオ ピーチ。…あっ、やった!俺もちょっとだけ!
チョビ 駄酒落だ。
アンコニオ おおおおお!
ホッペ (気の無さそうに)ふーん。
チョビ いい大人だ。
ホッペ …で、膨らませるんすか?
チョビ ああ、やろうか。
ホッペ でも、あの、空気抜いて帰りますからね。
チョビ ああ。いいよ。
ホッペ (少し膨らまそうとして)…でもこれ、あれ?膨らまないですね、これ。
コシアン お前、逆らってるのか?
ホッペ いや、でも、膨らまないのくれませんでした?
アンコニオ 膨らませるんだよ!
ホッペ いや、膨らまないですよ。
アンコニオ 膨らまさなかったら、ボスの命令に逆らってるから駄目なんだよ!
コシアン そうなのか?
チョビ 我々はあまり主体性がないんだ。
コシアン じゃ、いこうか。

皆、ビーチボールを膨らませる。

ホッペ あれ?
アンコニオ 残念だったな。膨らまなかったよ。…ちなみにこいつは一遍膨らんじまうと今度は抜けにくいんだ!
ホッペ …何でそんなことを…
チョビ じゃ、おめえさん空気を抜きたがってるようだから、遠慮なく抜いてくれ。
ホッペ これはどうも。
チョビ どんどん抜いてくれ。

ホッぺターニョ、どんどん抜いてゆく。

ホッペ (最後の一つを残し)これ抜きにくいんですよね。じゃどうも、御世話さまでした。(去ろうとする)
アンコニオ おおい。
ホッペ はい?
チョビ ちょっと抜くところがみたいなあ。
ホッペ 抜くんですかあ。
チョビ 抜くところが、見たい。
ホッペ 変わった人だなあ。

ホッペターニョ、ちょっと苦労して抜き始める。

アンコニオ おそいなあ。もっと景気よくさっきの奴みたいに抜けねえのか?
ホッペ 何でそんなことで威張るんですか。…抜けにくいって言ったの、あんたやし、ほんで。

アンコニオ、銃を抜く。

ホッペ な、何するんですか。
アンコニオ おそい…
チョビ 若い元気の暴走だ。
アンコニオ お・そ・す・ぎ・る!
ホッペ そんな、いや…
チョビ 何となく加勢したくなってきた。

チョビ、ついでコシアンも銃を抜く。

アンコニオ 手を休めるな…分かってる。そのビーチボールには当てない。そんな所から空気が抜けちゃあ、おめえも本望じゃねえだろうからな。
ホッペ いや、本望も何も―

三人、ホッペターニョを銃で撃つ。そして、死んだホッペターニョをかついでドアから出てゆく。

コポネ登場。

コポネ おうっす!…二回目だというのに元気がないなあ、もう一回だ、おおーす!!
 おおっす。
コポネ おお…いま、おおっすと返事をしてくれた全ての皆さん。ありがとう。歯みがけよ。宿題やれよ。また来週。

コポネ去る。

コシアン、ドアから戻ってくる。

コシアン やれやれ、あんな膨らんだ奴を埋めるのを手伝ってられるか。(ドアの向こうを覗き)もう少しかかりそうだな。…ということは、今、ここには誰もいないということだ。(部屋の中をごそごそと捜しまわる。)誰もいない、誰もいない…見つからない。
(立ち止まって)私は実は、FBIの者だ。コポネの犯罪の証拠を探すためここにもぐり込んだ、というわけだ。ちなみにFBIとは「ファット・ボディはイヤイヤの会」の事だ。ここにコポネの裏帳簿が隠してある、筈なんだ。我々はClAからその情報を得た。…「シルコ・イヤイヤ・アソシエイション」だ。まず情報に間違いは無いはず。
…コポネの奴、一体どこに隠したんだ。(少し考えて)ここは、攪乱戦術を使って証拠を…ぼろが出るように操作してやろう。
     
袋から、何やらおもちゃの時限爆弾の様なものを取り出す。目覚し時計と、トイレットペーパーの芯を三本ダイナマイト風に束ねたものが、線で繋がっている。

これは、…時限爆弾に見えるだろう。…時限爆弾型の目覚まし時計だ。これをこの辺に置いておく。これで奴等は大騒ぎになるはずだ。その隙に乗じて帳簿を探す。攪乱戦術だ。(置いてみたのを眺めて)…ちょっとインパクトが足りないかもしれない。何となく怪しげにしておこう。(時計の周りに怪しげな波線を書く)これで完璧だ。

コシアン下手に去る。

チョビエーリ、ドアから帰ってくる。

チョビ コシアン、先に帰っちまうとはひでえじゃねえか。…あれ、どうした、誰
    もいねえのか。…誰もいねえのか。
(腹話術で) ココニイルヨ。
チョビ あれ?何だ今のは。声がしたぞ。
(腹話術で) ココ、ココ。
チョビ ああ、あれ、これは…(猫型指人形を取り出す)俺の人形だった。…これは人形のマーカム。俺は実は国税局の人間なんだ。この人形のマーカムは、子供たちに国税局の仕事を分かりやすく教えるときに使うものだ。
…マーカム、国税局が集めた税金は一体このアメリカ合衆国で何のために使われてるか、答えてください。
(腹話術で) エートネ、グンビ。
チョビ うん、そうだな、軍備にも使う。後は?
(腹話術で) グンビ。
チョビ うん、軍備にも使う。後は?
(腹話術で) グンビ。
チョビ うーん、軍備以外のはないのかな。
(腹話術で) ウーン、アカガリ。
チョビ (人形を外して)駄目だこりや。…国税局の人間がコポネー家に忍び込んでいるということは、税金関係の捜査だと思うだろうが、実はそうじやなくて、俺はずーっと、コポネの脱税の手伝いをこっそりしてきたんだ。ところが、コポネの奴、俺が知りすぎたから、裏帳簿ごと、消してしまうつもりらしい。俺はそんなのは嫌だから、裏帳簿ごと奴の証拠を売っ払ってやろうと思って、裏帳簿が有るって噂のこの工場に来たってわけだ。
(時計に気付き)何だこれは!さっきまでこんな物はなかったぞ。…これはきっと…トイレットペーパーを使いきった人が三本まとめて…目覚まし時計につけたんだ!…すごいシュールだ。意図不明だ。
(怪しげな波線に気付き)これは何だろう。…これはきっと、作品の続きだから、完成させてやらなければいけない。私が思うに、この…斜めの線は…昆布だな。(線を書き足して、より昆布らしくする。)これで何というかこの、手術台の上のミシンとコーモリ傘の出会いの様な…昆布と、目覚まし時計と、トイレットペーパーの芯の出会いになったわけだ。これはシュールだ。

チョビエーリ、下手へ去る。

アンコニオが疲れた様子で、ドアから帰ってくる。

アンコニオ 皆、全部僕に押しつけて、先帰っちまうんだから。…ちゃあんと、直径50メートル、深さ50センチの穴掘って、埋めて、その上ちゃあんと固めてきましたよ。ふう…ん?(いないのに気付き)先、帰ったんじゃねえのか。…どこ行ったんだあ?んん?…でも、ということは…俺一人と…

何やらごそごそと袋を掻き回す。

これがくりゃあ…あさって、いや、明日だよ。俺の女房は――

何か物音。

なんだ?今の音は(見てくる。が、何もない。)(戻って)これが、あいつが前から欲しがっていた夫婦のしるこ椀だ。ああ、これが大体いくらだったかってえと、ざっと…たったこんだけで、1800ドルもするんだな。俺にはそんな大金、持ったこともなければ目の前にしたこともねえ。しかし、やっぱフーマンチュウの親父の骨董屋は何があるか分かんねえわ。その隣に有ったのがこれさ。(文庫本を出す。本の表に『お買い得品』の札が貼ってある)お買い得品…俺はつい、フーマンチュウの親父に「お買い得品てのは、一体どれくらい、お買い得なんだ。」聞いちゃったよ。親父が言うには「マイナス1799ドル75セント。」「え?マイナスって本当ですか?」俺思わず聞き返しちゃったね。本当だそうだ。「てことは、このお椀とこれをセットで買えば、25セント、そういう事でいいんだな。」ちゃあんと念を押したよ。そしたら、それでいいってえんだ。俺は狂喜してクォーター一枚ぽーんと置いて、フーマンチュウの親父の所からこれ貰ってきたよ。…しかし、フーマンチュウの店がやばいものを取り扱ってるてのは前からかなり噂だったんだが…実は、こいつ、目茶苦茶やべえもんだったんだ。…裏を見ると、『ディス・イズ・バック』これが、裏だって書いてある。俺は聞いた事があるんだ。あのシル・コポネ様の本物の裏帳簿の裏には「これが裏だ。」って書いてあるって。すると、これはシル・コポネ様の裏帳簿…まずいなこんなもの、俺みたいな奴が手に入れたら、どうなるか分かったもんじゃない、…でもなあ、実は、金が足りねえんだよな。俺がジンサンシバンムシエキスなんてケチな物を売ってるのも、何を隠そう、俺の嫁さんのMrs.フケンコウが、すげえ大喰らいで、毎日食費に125ドルかかるんだ。その85%はしるこだ。そんな金が俺にあるわけねえわな、だからまあ、ジンサンバンムシエキス売ったり、牛乳パックも…いろいろ、頑張って集めて、してんだけどよ、しかしこの裏帳簿があれば…金が、手に入るかもしれねえな…問題はだ、…(本を開き)中身が俺にはさっぱり分からねえ。いってえ何が書いてあるんだか全然分からねえ。俺が、この、「裏帳簿の裏にはこれが裏だって書いてある」てのを聞いたのは、あのコシアンさんに可愛がられていた兄貴のシルコニオが、死んだ時のことだ。

シルコニオは、ゼンザイスキーが102杯目のぜんざいを食べた時、99杯目のしるこを手にしていた。
(しるこをすするマイム)99杯…(鼻からしるこを吹き出すマイム)
「あ、兄貴!!」
(鼻からしるこを吹き出すマイム)
「あ、兄貴!お、おめえはいつも、右の穴、ひ、左の穴、左の鼻の穴、右の耳の穴って、順番に、出すんじゃなかったのか?!」
(耳から激しくしるこを吹き出すマイム)
「ここここれはシルコイヤイヤ・モンゼツシンドロームの末期症状に違いねえ、
(鼻と耳から更に激しくしるこを吹き出すマイム)
「え?え?え?ななな何なんだ?」
(鼻と耳から更に激しくしるこを吹き出すマイム)
「ぴい、ぴい、ぴい、ぴぴっ、ぴい、ぴい、ぴい?ああ?なな何だ?…も、もしかして兄貴、最期の力ふりしぼってモールス信号で俺に何かを伝えようとしているのか?…わ、分かった。モールス信号だな。…ん?ん?ん?…シル・コポネ様の裏帳簿の裏には『これが裏だ、』って書いてあるってコシアンさんが言っていた?」
(力尽きて死ぬマイム)
「…兄貴…兄貴い!!」

…こうやって、兄貴のシルコニオは死んじまったんだ。…しかし…

ん?(昆布の絵に気付き)これは何だ。…何か、ゆらゆら揺れてるな。……見たところ、わかめの様に見えなくもねえな。しかしわかめが宙ぶらりんじや可哀そうだろう。やっぱり岩にちょっと、くっつけといてやらないとな。(岩の絵を描く)しかも、わかめが生えてるって事は、それほど水深は深くねえな。(水面の線を引く)水面だ。(水面と書く)海面と書いた方がいいかな。(書き直す)…ああ、しかもこういう岩場には、ちょっとばかし魚みたいなのも、いてもいいだろ。(魚を描く)一匹じゃ淋しいか。(もう一匹描く)…ああ、これで、いいかな。…しかしこれは、何なんだ?(目覚まし時計を見る)見たところ、壊れている時計に…何かがつながっている。…(考えて)分からねえ。(ベルの部分を弾く、するとチーンと鳴る)おお!(驚いて)やべえ、音出しちまった。

コシアンとチョビエーリが戻ってくる。

コシアン (絵を見ている)……。
アンコニオ コシアンさんどうしたんですかい?
コシアン いや。
チョビ 今、ベル鳴らなかったか?ベル。
アンコニオ え?いやあ、気のせいでしょう。
チョビ そうか、…(本を見つけ)こりゃなんだ?
コシアン (読む)ディス・イズ・バック。
チョビ これは後ろだって書いてある。
アンコニオ 後ろ?
チョビ (裏返し)じゃこっちが前か、…いや、こっち後ろだ。おかしいな、前なのに後ろって書いてある。
コシアン そりやあ、怪しいな。
アンコニオ 怪しい。怪しいってえと、例えば裏帳簿とか、そういう…
チョビ 裏帳簿!
アンコニオ え?ななななな何だ。
チョビ いや俺、裏帳簿好きなんだ。
アンコニオ 裏帳簿が好き?
チョビ 俺は裏帳簿が好きだ。
アンコニオ 表の帳簿は嫌なのか?
チョビ 裏の方が好きだ。
アンコニオ う、裏の方がいいのか。
チョビ 裏のほうがいい。
アンコニオ …あんたには渡したくねえなあ。
チョビ 帳簿ファンなんだ。
アンコニオ 帳簿ファン。
チョビ そう。
アンコニオ 帳簿ファンてえと、ファンの羽根に全部帳簿がはりついてぐるぐる回ってる…
チョビ そりゃあシュールだなあ。…いやそんな訳ないやろ。
アンコニオ 結構ばたばたうるさい。
チョビ 帳簿が汚れちやうじやないか、それ、油とかどんどんひっついて。
アンコニオ そうやって、隠蔽工作をするんじやねえのか?
チョビ 良く出来てるそれ。
アンコニオ おおお!
チョビ 違うよ。帳簿が好きなんだよ、だから。
アンコニオ (コシアンの方に本を持ってゆき)コシアンさん、この裏帳簿、なんて書いてあるんです?
コシアン そうだなあ…まあ、…俺が一人で見といて(と持っていこうとする)
二人 いやいやいや!(追っかける)
チョビ せっかく見つけたんだから、見ようよ。
コシアン いや、こういうのは一人でゆっくり見た方が集中できていい。
チョビ それはそうだけどね―
アンコニオ しゅ、集中したって、そんないい事はねえですよ。
チョビ 裏帳簿好きとしては是非見ておきたいな。
コシアン 集中した方がいいに決まってるだろ。
アンコニオ ええ?

一瞬、アンコニオ離れる。コシアンが読み始めると悪戯をして、邪魔をする。

アンコニオ ほらあ、集中したってろくなことないじゃないすか!
コシアン ちょ、ちょっと違うな。
アンコニオ ええ?
チョビ ど、どうだこれ。
コシアン これは…日本語じやねえか。
アンコニオ 日本語?
コシアン ああ。…どうもこれは、内容は、あれじやないか?…『ブロック崩し攻略本』じやないか。
チョビ ブロック崩しの攻略本か。そりやまたクラシックだ。
アンコニオ ええ?
コシアン かなり古典だな。
アンコニオ それだけなのか。
コシアン それだけだ、。
アンコニオ 裏帳簿じゃねえのか?
コシアン …おめえら、さっきから裏帳簿、裏帳簿って、何だ、そりや。
チョビ いや、裏の帳簿だよ。裏帳簿。
コシアン 裏の帳簿。
チョビ 裏の帳簿だよ。
アンコニオ お、俺も実は裏帳簿大好きなんだ。う、うつったのかな。
チョビ 恥ずかしい買い物とかの時はそっちに付けるんだ。見たいだろ、そりや、人の恥ずかしい買い物。
コシアン 俺も…だんだん、好きになってきたよ。
チョビ そうだろう。探したくなってきただろう。
コシアン よし、探そう。

皆、あちこち探し始める。

アンコニオ 裏帳簿だ…
チョビ 裏帳簿だ。
アンコニオ 裏帳簿ってえと――
チョビ 裏帳簿だから、本物の帳簿っぽい格好はしていないかもしれない。
アンコニオ 本物の帳簿っぽい格好はしていないかもしれない?
チョビ 例えば
アンコニオ 例えば?(カセットコンロをひろう)
チョビ こりゃあちょっと、無理があるな。…こりゃあ、記録もつきにくいだろう、これは。な、中見てみようか?…油ぎってる…
アンコニオ 裏脹簿を燃やす為の道具かもしねねえな。
チョビ それの方が便利だな。
コシアン んん…
チョビ 何かあるか?
アンコニオ どうした?
コシアン 何か入ってる。
アンコニオ 何かはいってる?
チョビ 裏帳簿か?……(見て)ああ、これは、裏帳簿じやない。
三人 (声を合わせて)ボスの、指令書だ。
アンコニオ 何て書いてあるんだ?
コシアン 『お兄さんを殺されて悲しいホッペターニョの弟がどこかからやってくる。こしょぐり倒してたっぷりと笑わせてあげなさい。』
チョビ そりゃあ、やらないといけないな。
アンコニオ ボスの指令だからな。
チョビ (うなずき)ボスの指令だからな。
アンコニオ ホッペターニョ…どこから来るんだ。
チョビ こっちかな。
アンコニオ こっちか?
チョビ いきなり銃を抜くなよ。
アンコニオ ああ。すまねえ。
 

アンコニオ…こねえぞ。
チョビ 入りづれえのかもしれねえ。
アンコニオ てえと――
チョビ もっとこう、気さくな雰囲気を出さなくちゃいけない。
アンコニオ ああ、ここで宴会を開いたりして盛り上げて、ちらっと覗いたところを、わあっと手を掴むとか、そういう…
チョビ うーん、まあそんな感じかな。
アンコニオ ホッペターニョは一体何を喜ぶだろう。
コシアン どうだろう…待てよ、俺にもうちょっと面白い考えがある。
チョビ 面白い考え。
アンコニオ どんな考えだ。
コシアン こうだ。(ドアをノックする。)

ドアが開き、ホッペターニョが顔を出す。

チョビ おお!居た。
アンコニオ 居た。
ホッペ (ぼそぼそと)新聞とらなくていいですから…

ホッペターニョ、引っ込んでドアを閉める。

アンコニオ 帰っちやたよ。
チョビ (ドアを指し)これ、外やろ、外。入口やろ。
コシアン そうだ。
チョビ 何で外に閉じこもるの。今の人。おかしいやん、それ。
アンコニオ 外閉症…とかそんな――
チョビ そんなんない、そんなんない。…と思う。…もう一回いってみよう。

再びノック。

ホッペ (顔をだし)うち、テレビ無いですから、NHKとか見てないですし…(引きずり出される)な、なんすか、あの、宗教とかいらないですけど。
アンコニオ まあまあ…(喘ぐように)ね、ね…(くすぐる。)
ホッペ な、何すか?…ちょ、――
チョビ こちょこちょ、こちょこちょ、
ホッペ うヘ…(少し笑う)
アンコニオ 俺が捕まえてるんで、どうぞ、くすぐってやって下さい。(捕まえる)

コシアンとチョビ、くすぐる。

ホッペ うへ、うへへ…ヘへ…何やってんだろ…俺、何かくすぐられてる…へへ、ヘひひひ、ひ、ひ、
チョビ この指令に何の意味があるんだろうな。
コシアン わからねえ。
アンコニオ もしかして、ボス実は礼拝堂にいくのが嫌なんじゃないですか?
ホッペ 足が弱い。
チョビ あ、いい事聞いた。(くすぐる)
ホッペ ひひひ、やめて、はははは、くすぐったい、
アンコニオ でもまだ倒れないっすね、笑わせ倒すって中々大変っすねえ。
チョビ お前押さえてるからだよ。
アンコニオ え?
チョビ お前引っ張り上げてるじやないか。
アンコニオ そ、そうすか?
チョビ リラックスしてみろ。
アンコニオ リラックス、リラックス、リラックス〜…(手を放すがホッペターニョは倒れない)
チョビ あ、まだまだいけるわ。(くすぐる)
ホッペ うひひ…
コシアン 倒れるまでやろう。(くすぐる)
ホッペ こ、こんなんじゃ、倒れないよお、く、く、(倒れる)
アンコニオ こんなもんでいいか。
チョビ じや、仕上げいこうか。
コシアン 用無しだしな。
チョビ せーの、

三人、ホッペターニョを撃ち殺す。

アンコニオ 片付けやすか。
コシアン そうだな。

皆でホッペターニョを引きずって出てゆく。

コポネ登場。

コポネ 畜生、さすが俺の組織にもぐり込むだけあって、中々鋭い奴等でシッポを掴ませねえ。…ここは一つ、俺の方も、攪乱戦術だ。奴等が欲しがっているのが、どうやら裏帳簿らしいってのは、俺の向こうにもぐり込ませているスパイの調査で分かった。そこで、実際に裏帳簿を奴等の目の前に出してみようじやないか。そうすれば、誰が裏切り者かは一目瞭然だ。

コポネ、脚立を持ってきて舞台中央に据え、裏帳簿を天井に吊るす。

コポネ さりげな〜く…しかも目につくように。(脚立から降りて)…裏切り者は消すのみだ。

コポネ、去る。

チョビエーリ、ドアから戻ってくる。

チョビ やあ、すごく重かった。…さて他の奴等が戻ってくる前に今度こそ裏帳簿の本物を探さなきゃいけないなこりゃ。

しばし探し回るがみつからない。

チョビ どこを…これが径しいって特徴はねえのか…

突然頭上の裏帳簿に気付く。

チョビ あ!しまった。…うつむいてばっかりいると、こういう事があるわけだな。

取ろうとするが手が居かない。そこで、棒を持ってきて落とそうとするが、これもうまくいかない。

チョビ 駄目か…先にマーカムを着けてみよう。

棒の先にマーカム(猫の指人形)をはめて再び試みるが、当然、うまくいかない。

チョビ 駄目だ。棒が可愛くなっただけだ。…これは、探すべきは、足場だな。(椅子を持ってくるが、ぐらぐらしている。)これは、危ない…(他の椅子も持ってくるが、同様)何でこんなのばっかりなんだ。もっとましなのは無いのか。

チョビエーリ、足場を探しに去る。

アンコニオ、戻ってくる。

アンコニオ ふう、今日二人目だよ、死体埋めるの。今回はちゃんと学習したから直径10メートルに抑えといたから、ちょっとはましだった…でももう、節が…はああ、(と、寝そべったはずみに上にある裏帳簿に気付く。)…裏帳簿?マル秘印がついてる。こんな所に本物の裏帳簿があったとはな、…取らなくちゃ!誰もこねえうちに。
 
飛び上がって取ろうとする。手が帳簿に触る。

アンコニオ 届くには届くが、…この建物ボロだから、引っ張ったら天井ごと落ちてきそうだから、駄目だな。…えーと、何かに上れば、

椅子を持ってきて、その上に乗ろうとする。だが不安定なので中々上れない。

アンコニオ 怖えな…(やっとのことで乗る)のぼれたよ!ああ、ラッキィ!

途端にバランスを崩して落ちる。そのはずみで椅子が壊れる。

アンコニオ ああ、取るの忘れたよ。(椅子を見て)でもこれ…何か、そうだな、高い所を切る剪定バサミみたいなもんがありゃあ、いいんだよな。何か、探してこよう。

アンコニオ去る。

コシアン戻ってくる。

コシアン 何で俺が後片付けしなくちゃいけねえんだ…(裏帳簿に気付く)こりゃあ裏帳簿じゃないか!…ぜんぜん気がつかなかった。よし、これを手に入れれば…こうやってる間にもあの二人が戻って来るかもしれない。これはまずあの二人を何とかした方が…という訳で、(ピアニカを出してくる)これを使おう。これはFBIの秘密兵器、催眠ピアニカだ。これを聴いたものは催眠状態に陥ってしまうという科学兵器だ。よし、ちょっと吹いてみよう。

ピアニカを吹く。とたんにアンコニオとチョビエーリがぶらぶらと出てきて、倒れる。

チョビ (起き上がり)あれ、おかしいな。
コシアン (傍白)よしよし。
アンコニオ (起き上がり)ん?な、何してんだ…
チョビ (気がついて)足場、足場…ここに何か丁度お誂え向きなものが。(脚立を見つける)
アンコニオ おう、おう、

チョビエーリは脚立を舞台中央に据える。

コシアン 何をするつもりだ。
チョビ いや、ちょっと、高い所に登りたくなって。
コシアン 高いところに?
アンコニオ ちょ、ちょっと待てそれは。
チョビ な何だよ。
アンコニオ いや、ちょっと待て。
チョビ なんなん何だよ。登らしてくれよ。
アンコニオ おめえ、高いところが好きなのか?
チョビ 今は好きだ。
アンコニオ 今は好き?さっきは帳簿が好きだとか――
チョビ いや気が変わりやすいんだ。
アンコニオ 気が変わりやすい。
チョビ それところで何だ?(何だろう?)
アンコニオ しらねえ、さっきそこで見つけたんだ。
チョビ そうか。
アンコニオ ああ。
コシアン 高い所に登って、どうするんだ?
チョビ いやあ登ってから考えるよ。
アンコニオ 登ってから考える。
コシアン 何でそんな所に立てるんだ?(脚立のことだ)もうちょっとこっちでいいだろ。
チョビ いやいやいや、ここがいいスポットだって、こう、天啓があったんだ。
二人 天啓?
チョビ 天の啓示だよ。
アンコニオ 天の啓示?その天てのは――
チョビ 天だよ。
アンコニオ 天にはここへが近道か?(脚立に登ろうと)
チョビ おい――
コシアン ちょっと待て!ちょっと待て!これを聴け!(ピアニカを吹く。二人は倒れる。)よしよし今のうちだ。(脚立に登ろうと)
二人 (起き上がって)ああっ。
アンコニオ おおおおっコシアンさん。どうしたんです、高い所、危ないですよ。(止める。)
コシアン 俺もちょっと、高い所が好きになって。
アンコニオ え?
チョビ ああそうだ。高い所、いいんだよ。俺も好きなんだよね。…な、何するんだよ、三人も乗ったらバランスが崩れるからこっちに来なくちやいけない。

コシアン、ピアニカで突然ラーメン屋のメロディーを吹く。するとアンコニオとチョビエーリは突然ラーメン屋のマイムを始める。

チョビ はい、いらしゃい。
アンコニオ ラーメン一丁
チョビ はい、えー、のりラーメンね。
アンコニオ ああ。
コシアン よしよし。(登ろうと)
二人 (気がついて)おお、(止めて)
チョビ 何かおかしいな。
アンコニオ コシアンさん、何してんすか!

コシアン、正露丸のメロディーを吹く。

チョビ (ドアを激しく叩くマイム)
アンコニオ 入ってます!!
チョビ 我慢できない!
アンコニオ 入ってますう!!
コシアン よしよし。(登ろうと)
チョビ (起き上がり)ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと。
コシアン 効果が中々長く続かないな…

コシアン、「蛍の光」を吹く。

チョビ おめでとう!!(卒業証書を渡すマイム)
アンコニオ ありがとうございます!
チョビ (メロディーが終わるとすぐ戻り)あれ、おかしいな。
アンコニオ ああ?おいおいおい、ちょっと(と脚立に)

コポネ登場。

コポネ ああっ、こらお前ら!とうとう決定的な瞬間をつかんだぞ。
チョビ いやちょっと、高い所に登って入の足に抱きつきたくなったんだ。
アンコニオ 俺は腰。
コポネ そうか…しかしお前らがどんな言い訳をしようと俺にはもう全て分かってるんだ。無駄な抵抗は止めることだな。
アンコニオ コシアンさん、裏帳簿なんか持って何やってるんすかあ。
チョビ コシアン、何やってるんだお前。
コシアン え?あ、あ、
コポネ お前らも薄情な奴だなあ。…まずは、アンコニオ!
アンコニオ は、はい。
コポネ 貴様は、一番下劣なやつだなあ。
アンコニオ 一番下劣?
コポネ 女の為に俺の裏帳簿を売り飛ばそうなんて。
アンコニオ ひ、非常にごく素直な事だと思うんですが。
コポネ ふん、まあ、次にいこう。…コシアン!貴様は、あれほど立派なシルキストだったのが、こんなのに成っちまうとはな。貴様がアンタッチャブルか、刑務所で「踏みしるこ」しやがったな。
アンコニオ 要するに、こいつは「転びしるこ」と、そういうわけで。
チョビ これは、生かしておけねえな。
コシアン いや、ちょっと待て、これを聴け。

コシアン、「ドナドナ」を吹く。途端にコポネは牛、アンコニオは牛追い人、チョビは少年となる。

チョビ 父さん、なんでチビを売っちやうんだ。
アンコニオ おら、さっさと歩けおら!(牛を鞭で打つ)
チョビ チビが、チビが可哀そうじゃないか。
アンコニオ えい!えい!(牛を鞭で打つ。)
チョビ いくら高く売れるからって売っちやだめだよ、父さん。
アンコニオ えい!えい!(牛を鞭で打つ)

コシアン、逃げようとするが、演奏を止めた途端みんな気がつく。

チョビ あっ、コシアン。
アンコニオ まてっ。
コポネ コシアン!
コシアン あっ、しまった。(捕まる)
コポネ まあ、慌てなくてもゆっくりお前たちを始末してやるぜ。…そしてチョビ
チョビ あ、畜生俺の番もあったのか。
コポネ 貴様は、俺の手助けをしてくれていたのじゃなかったのか?
チョビ そうだ、さんざん脱税を手伝ったじゃないか。
コポネ それを今更お前が裏帳簿を手にれてどうするんだ?ゼンザイーノ一派にでも売っ払うつもりだろう。
アンコニオ 要するに、悪い奴はこいつだったと、そういう訳ですね!
コポネ お前は血の気か多すぎるんだ馬鹿者。
アンコニオ すいません。
コポネ お前はいくつハチの巣を作れば気が済むんだ。
アンコニオ これは確か…忘れました。*

*舞台上には牛乳パックを使って作ったハチの巣の巨大模型(直径一メートルぐらい)があった。

コポネ さて、さあ、貴様等も今すぐここでこうして、このようなハチの巣にしてやってもいいんだが…なぜ、このシル・コポネ様が本当の闇の帝王であるかその所以を教えてやろう。私は決して逃げないからだ。そして公明正大に勝負をするからだ。
アンコニオ 逃げない。
コポネ このままお前らを撃ち殺してもいいんだが、お前らにももう一つだけ、チャンスをやろう。
チョビ チャンスって言うとあれか。
コポネ なんだ。
チョビ 洋服をしまう。
コポネ それはタンス。
アンコニオ チャンスって言うとあれですか、あ、あのロッキーとか、えーとタイソンとかあんなあたりの。
コポネ それはチャンプ。
コシアン チャンスってえと、あの、ちょっと団扇みたいで、広げて扇ぐと持ちいい
コポネ それは扇子!
チョビ チャンスってえとあれか、あの、山の中に行ってテントを張ったり――
コポネ そらキャンプ!!
アンコニオ チャンスってえとあれですか、こう「シェー」とかやる人が言う奴すか。
コポネ ?そりや何だっけ。
コシアン ざんす。
コポネ そらざんすや。…もう終わりか?まだあるのか。
コシアン もういいけど(飛ぶ)
コポネ ジャンプ…(気を取り直して)もう一度お前らにチャンスをやろう。
チョビ チャンスってえとあれか。ワールドカップ98年を行ったヨーロッパの
コポネ え一と何だったかなそれは
チョビ フランス。
コポネ ちゃうやんぜんぜん。
チョビ 「ンス」だけ。
コポネ (再び気を取り直して)お前らにもチャンスをやろう。
チョビ 何かないかな。
コシアン もうない。
アンコニオ もうない。
コポネ じゃ、いいか、今から一つゲームをやる。
チョビ ゲーム。
アンコニオ ゲーム。
コシアン ゲーム。
コポネ そのゲームに勝ち残った奴は、許してやろう。…そしてそのゲームとは。
アンコニオ ゲームとは?
コポネ 伝言ゲームだ。
 伝言ゲーム。
コポネ 今日は人数が少なくてラッキーだなあ。
チョビ ラッキーていうか。
アンコニオ うーん。
チョビ なんとも言いようがない。
コポネ お客さんに、伝言ゲームをしてもらう。真ん中のグループだけ二人いて不利だ。
アンコニオ もしかしてオペを使っちゃうとか、そんなこと
コポネ まあ、使ってもいいけど…そして、お前ら三人とも正しく伝言が伝わって来たら、俺が死んでやろう。
コシアン おお。
アンコニオ それはムチャクチャ潔い話っすね。
チョビ これは有利だ。
コポネ 俺はこうして、しかし全ての勝負に勝ち残って来たからこそリアル・ボスなのである。
チョビ ボスそりゃ強運だなあ。
アンコニオ おお。
コポネ しかし伝言をどこへやったかな。(探す)
チョビ ボス隙だらけだ。
コポネ あったあった。…お客さんに見られちやうと、分かっちやうので…まずチョビ、お前はこっちだ。
チョビ よっしやあ。
コポネ アンコニオ、お前はここだ。
アンコニオ ええ〜(嫌がる)
コポネ そしてコシアン、貴様はこっちだ。
コシアン いいだろう。
コポネ けどお題的にはチョビが一番難しいと思うな。
チョビ ええ〜(嫌がる)
コポネ これだ。
チョビ こ、これですか。これは…
コポネ そして、これは…(アンコニオに渡す。)
アンコニオ ああー、わかるかな。
コポネ そして、貴様が、…(コシアンに渡す。)これだ。
コシアン わかった。
コポネ よし、それじや行け。

伝言ゲームが始まる。

チョビ 今日は、悪いけど勝たせてもらうよ。
コポネ ほんとかな?
チョビ いやあもう、そりゃあもう、頑張っちゃうよ。
コポネ やってもらおうじゃねえか。

皆、メッセージを伝える。

コポネ あっ、一回しか言うなよ。二回も三回も言ったら分かるからな。
チョビ ああ、めざといなあ。

チョビ しかし文系の人はちょっと下安だなあ。不安だ。

伝え終わる。

コポネ それじゃまずこっちの人から教えてもらおうかな。何でしょう!(上手の列に聞く)
 懐石弁当
コポネ 懐石弁当!!
チョビ …駄目か!
コポネ 役者としての自信が揺らぎますな、こりゃ。
チョビ 今日も駄目か。
コポネ こちら、何でしょう。(真ん中の列に聞く)
 懐石料理。
 おお…。
コポネ こっちは何でしょう。(下手の客に)
   しるかいせき。
 おおお…。
コポネ では、正解を…アシスタントのホッペターニョ・フックラーニョ(呼ぶ)
まず上手は何だ。「懐石弁当」だったが、本当は。
ホッペ 解析概論てす。
コポネ お前なあ、せっかく用意してんのになんで取ってけーへんねん。(正解を書いた紙を持ってくる。)上手はこれでした。…真ん中は。(紙を広げる。)
チョビ 真ん中は。
コポネ 「懐石料理」…あってた。…下手は(紙を広げる)「将介石」でしたね。「しるかいせき」ではなく。
コシアン おしかった。
チョビ 今日のテーマは「かいせき」ですね。
コポネ という訳で、コシアン!…じゃなかった。真ん中だれだっけ
アンコニオ でも確か、全員勝たなきやボスは死なないんてすよね。
コポネ そうだ。…どうやら、貴様だけ生き残りだなあ。
チョビ そりゃあ、勝ち残るに決まってるよ、こんだけ、三人全員なんて。
コポネ じゃあ、後の二人は覚悟は出来てるんだろうなあ。
チョビ 出来てるわけないだろ!(銃を抜く)
コポネ 何だこいつ!!(銃を抜く)

入り乱れての撃ち合いとなる。ホッペターニョ以外全員倒れる。

コポネ 俺に本当の友はいないさ…(死ぬ)

間。一人残ったホッペターニョ。

ホッペ わあ、死んじやったの?…、よし、これで、しるこは全て俺のもんだな。全部食ベ――(音楽が鳴る)おうっ(驚く)

暗転

スライドタイトル

『翌年、禁しるこ法廃止そして』
『人々は、また、ひとりでに太りはじめた。』
『END』
おしまい。

(この後、お客さんにお汁粉がくばられた。)

ここまで読んでくださった方、有難うございます。サンキュー。オブリガード。グラシアス。グラッツェ。ダンケ。メルシー。フヴァラ。謝謝。ニャンコニャンコ。

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